沿岸域で淡水地下水を利用する際には揚水により下層の塩水地下水を引き込まないように塩淡境界の変動を把握する必要があるが、塩淡境界を貫く観測孔では揚水中に塩水地下水が上昇し、塩淡境界変動が正確に把握できない課題がある。このため、電気探査手法を応用し、観測孔内の塩水変動の影響を低減しつつ、観測孔外の帯水層中の塩淡境界変動を検知する手法開発を行った。令和3年度は地表送信+孔内受信電極配置による塩淡境界変動に対する探査感度を2次元地盤モデルで解析し、塩淡境界を挟む受信電極配置によって孔内水の電気伝導度変化及び地下水位変動に対してよりも帯水層中の塩淡境界変動に対する感度が大きくなることを明らかにした。試験地とした沖縄県多良間島では、賦存する淡水レンズ下限の塩淡境界の上下に孔底を持つ観測孔の組が利用できる島の北西部、北東部、南西部の3エリアを選定し、塩淡境界の揚水試験時変動、潮汐変動及び季別変動を対象に開発手法によるモニタリングを令和3、4年度に行った。その結果、孔内水の深度別電気伝導度は約12時間周期の潮汐変動を示すのに対し、塩淡境界を挟む受信電極探査システムではこの変動は観測されず、2次元地盤モデルにおいて観測孔内の塩淡境界のみが変動する場合と一致する結果が得られた。3次元地盤モデルでは孔内電極付近の電位計算精度を上げるため細分割したところメモリ容量不足で必要な精度でのモデル計算ができなかったが、中里ほか(2003、農工研技報)では3次元的に局所的な比抵抗変化は2次元探査では過小評価されることを明らかにしており、地表送信+塩淡境界を挟む孔内受信電極配置により、孔内水の電気伝導度変化の影響を低減し、帯水層中の塩淡境界変動を検知したと考えられる。同様の探査結果は時期を変えても再現できたため、本成果については地下水塩淡境界変動の検知方法(特願2022-196721)として特許出願を行った。
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