研究課題/領域番号 |
21K05849
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
佐合 悠貴 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (20648852)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 養液栽培 / 養分吸収速度 / 吸水速度 / 養分吸収モデル |
研究実績の概要 |
養液栽培は,精密な肥培管理が可能であり,水・肥料資源の消費量が少ない点で持続的かつ生産性の高い食料生産技術であるが,栽培過程で発生する余剰養液の廃棄は,無駄な肥料コストや水系の富栄養化などの環境負荷の原因となる。環境負荷が少なく生産性の高い養液栽培を実現するためには,養分の培地―植物間における動態や植物体内での蓄積・利用を推計し,時々刻々と変化する環境に対応した最適な意思決定を支援する精密肥培管理を実現する必要がある。本研究では,培地―植物間の養分動態を支配する吸水速度の現場での実用的な評価手法を確立するとともに,根の養分吸収・代謝モデルを確立し,節肥型養液栽培や余剰廃液の節減養液栽培への応用も試み,持続的かつ生産性の高い精密肥培管理法の提案を目指す。 初年度においては,まず養液栽培現場での実用的な吸水速度評価法を開発するため,含水率センサにより植物を栽培している培地の体積含水率を経時計測した。その結果,体積含水率減少速度は吸水速度の実測値とよく合った。このことより,体積含水率の経時計測は吸水速度の把握に適用可能であることが示された。さらに,養水分吸収速度を実測して蒸散統合型養分吸収モデルのパラメータを取得し,異なる環境条件下での培地内養液濃度推定の可能性を検討した。その結果,構築したモデルは養分吸収量予測が可能であることが示唆され,吸収速度に対する環境作用が肥料成分ごとに異なるため,長期間栽培するうちに養液の肥料組成が崩れてしまう既知の過程を,モデルを用いて明示することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,節肥型養液栽培や余剰廃液の節減養液栽培への応用を目的として,培地―植物間の養分動態を支配する吸水速度の現場での実用的な評価手法や根の養分吸収・代謝モデルを確立し,持続的かつ生産性の高い精密肥培管理法の提案を目指す。 まず,養液栽培現場での実用的な吸水速度評価法を開発するため,ナスをヤシ殻培地耕栽培し,含水率センサにより培地の体積含水率を経時計測した。吸水速度の実測値は,養液タンクから培地への養液供給量と,培地から余剰養液タンクへ排液された余剰養液量との差から計算され,養液供給間隔毎に求めた。一方,吸水速度の推定値は,体積含水率減少速度と培地体積との積から求めた。その結果,養液供給停止時間における体積含水率減少速度は,埋設位置にかかわらず,日中は多く,夜間は少なかった。体積含水率減少速度から吸水速度を推定したところ,培地底面からの高さが低いほど推定値は大きくなり,底面から3cm程度の高さで実測値とよく合った。以上より,体積含水率の経時計測は吸水速度の把握に適用可能であることが示された。 次に,ナスの養水分吸収速度を評価して蒸散統合型養分吸収モデルのパラメータを取得し,異なる環境条件下での培地内養液濃度推定の可能性を検討した。養分吸収速度は,イオン濃度と吸水速度の積に依存すると仮定して,蒸散統合型養分吸収モデルのパラメータを数値解析により取得した。さらに,パラメータを求めた期間とは異なる期間における各イオンの養液中濃度の推移をモデルにより予測した結果,各イオンの実測値と予測値は近い値で推移した。
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今後の研究の推進方策 |
根の吸水速度は,植物体の水分生理だけでなく,根の養分吸収にも作用するため,肥培管理における重要な指標である。すなわち,吸水速度を指標とした蒸散統合型養分吸収モデルを用いることで,営農現場における根域の物質動態をリアルタイムに予測でき,持続的な肥培管理が可能となると考えられる。とくに,ハウス内では環境の時空間的変動により吸水速度にムラが生じるため,適切な肥培管理を実現するには,個体または群落レベルでの吸水速度の把握が欠かせないため,今後の研究で検討していく。 また,養液栽培では,栽培時に発生する排液が水系の富栄養化などの環境負荷となるため,養液を循環利用する閉鎖式養液栽培の導入が図られている。しかし,吸収速度に対する環境作用は肥料成分ごとに異なるため,長期間栽培するうちに養液の肥料組成が崩れ,生産性が低下してしまう。そこで,根の養分吸収に対する環境作用をモデル化し,その情報を閉鎖式養液栽培における適切な肥培管理に活用する必要がある。構築したモデルは養分吸収量の予測が可能であることが示唆され,養分吸収速度の吸水や養液濃度への依存性はイオン種により異なることが示された。このことは,閉鎖式養液栽培で栽培中に肥料組成が崩れることの原因と考えられるため,今回構築したモデルを用いて検証していく。
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