最終年度においては,養分吸収モデルに基づいた果菜類の環境保全型養液栽培技術の開発を実施した。循環式養液栽培は,余剰養液の廃棄による水系への環境負荷を低減できるものの、長期間栽培するうちに養液の肥料組成が崩れてしまう。対処法として,養液肥料濃度を頻繁に計測し肥料組成を調節する方法もあるが,コストがかかるため小規模施設では導入が困難である。 これまで,ナスの循環式養液栽培を対象とし,養分吸収速度を吸水速度で除して得られるみかけの吸収濃度を追肥養液濃度とすることで,肥料組成が長期安定化できることを明らかにした。さらに,養分吸収モデルを用いることで,頻繁に養液濃度を測定しなくても養分吸収速度を推定できることを示した。本年度においては,この肥培管理方法の汎用性を検討するため,トマトを循環式養液栽培し,吸水速度と養液イオン濃度の推移を評価することで養分吸収モデルを構築した。 まず,トマトの養分吸収モデルパラメータを取得するため,第一果房着果時に養液濃度を様々な濃度に設定し,吸水速度と循環養液の各肥料イオン濃度を経時測定し,モデルを用いて計算される循環養液のイオン濃度の推移の推定値が実測値に近い値になるように最小二乗法を用いて同定した。さらに,異なる肥培管理法でトマトを養液栽培し,標準処方である山崎氏トマト処方で長期間濃度管理で循環式養液栽培を続けると養液の肥料組成が次第に崩れていくものの,モデルに基づいた新規肥培管理法は,肥料組成が長期安定化することを示唆した。
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