研究課題/領域番号 |
21K05868
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
星野 友紀 山形大学, 農学部, 准教授 (20530174)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 穂発芽 / イネ / 量的形質遺伝子座 / 責任遺伝子 / QTL / 突然変異 / ファインマッピング |
研究実績の概要 |
穂発芽耐性の有用アリルの探索とその分子機構の解明を目的に、コシヒカリ(Ksh)と穂発芽耐性の強いインド稲品種Nona Bokra(Nona)を用いたQTL解析によって、第1染色体短腕に座乗する穂発芽耐性qSdr6が見出された。本年度は、qSdr6の候補領域内に2つ存在したQTLのうち、qSdr6bに着目した解析を行った。 ファインマッピングの候補領域内で非同義置換が確認されたGeneAとGeneCのどちらかが責任遺伝子であると考えられた。発現解析の結果、KshとNIL間で発現量が異なったGeneAが責任遺伝子の可能性が高いと考えられた。GeneAについて、イネ科近縁種とのアミノ酸配列の相同性を比較したところ、Ksh型アリルが広く保存されていたため、Nona型アリルが変異型であると予想された。このことから、NILにおけるGeneAの発現量低下は、Nona型変異によるGeneAの機能の低下あるいは消滅に起因することが推察され、qSdr6bの責任遺伝子はGeneAであると考えられた。RAP-DBより、GeneAは機能未知のタンパク質をコードしていたが、シロイヌナズナの相同遺伝子はグルコースシグナルの調節因子として機能していることが報告されており、イネでも同様な機能が推察された。興味深いことに、外因性グルコースによる発芽試験より、休眠時におけるNIL(qSdr6b)の種子発芽は、KshやNIL(qSdr6a)と比べて高いグルコース感受性を示したことから、qSdr6bの責任遺伝子はGeneAであることが強く示唆された。以上より、穂発芽耐性遺伝子qSdr6b/GeneAはグルコースシグナル伝達を介したABAの高蓄積により、穂発芽耐性を示すと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で対象としている穂発芽耐性遺伝子座のうちqSdr7については、現在論文のための最終段階であり、今年度中に公開を予定している(Hoshino et al. 2023 Plants)。qSdr6aは遺伝子発現の調節領域であり、その制御下にある間接的な責任遺伝子GeneXの同定に成功した。この結果は、逆遺伝学的解析による証明にも成功したことから、現在論文作成の準備中である(Sano et al. 執筆中)。本年度は新たに、qSdr6bについては、ファインマッピングにより候補遺伝子の特定に成功し、生理学的解析からもGeneAが責任遺伝子である確証が得られたことから、次年度は逆遺伝学的解析によってその証明を試みる予定である。既に、突然変異体の選抜にも成功しており、次年度に突然変異体群を圃場で栽培し発芽試験を実施する予定である。いずれも、当初の想定通りの結果が得られており、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。 また、新たな穂発芽耐性遺伝子座の検出のターゲットとしてイネ第9染色体に座乗するqSdr9.1とqSdr9.2についても同様の解析を実施している。新規な組換え系統を作出してファインマッピングを実施したところ、いずれの候補領域にも複数の責任遺伝子の存在が示唆され、QTLの責任遺伝子には困難が予想される。ファインマッピングによる候補領域の絞り込みには解析の限界があるため、新たに遺伝子発現解析と突然変異体による逆遺伝学的解析を試みる予定である。 これら得られている成果を統合し、一部研究の進展が滞っている部分はあるものの、それらについては新たな研究アプローチを実施しており、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
穂発芽耐性遺伝子Sdr7については、次年度中に論文を公開予定である(Hoshino et al. 2023 Plants)。 qSd6aについては、その成果を論文として公表する準備段階にある。穂発芽耐性遺伝子Sdr6bについては、候補遺伝子GeneAの単離に成功したことから、真にSdr6bがGeneAか否かを確定するために、逆遺伝学的解析として、突然変異体の選抜を行い、その表現型の調査により証明する予定である。発芽生理学的解析から、Sdr6bはGeneAであるという結果も得られていることから、現段階でSdr6bはGeneAである可能性が極めて高いと考えており、逆遺伝学的解析の結果が得られ次第、その成果を論文として公表する予定である。 穂発芽耐性遺伝子座qSdr9.1とqSdr9.2については、通常の解析法であるファインマッピングでは、関連する遺伝子が複数あるためか、それらの責任遺伝子を特定することは困難な状況である。そこで、次年度では新たに候補領域内の遺伝子発現解析を実施し、KshとNIL間で遺伝子発現量が異なる遺伝子を標的にしながら、突然変異体を用いた逆遺伝学的解析によって、穂発芽耐性遺伝子を単離しようと考えている。これらの手法は既にqSdr6やqSdr7の責任遺伝子の証明の際に実施した解析であり、qSdr9.1やqSdr9.2のおいても即座に適応可能であると考えている。
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