コシヒカリ(Ksh)と穂発芽耐性の強いインド型イネNona Bokra(Nona)を用いたQTL解析によって見出されたqSdr6bの責任遺伝子は、GeneAであると推定された。本研究では、このGeneAが真にSdr6bの責任遺伝子であるかを検証するために、Ksh突然変異集団からgenea突然変異体を単離し、逆遺伝学的な証明を試みた。Ksh突然変異集団の中から、GeneA領域に独立した非同義置換を有する6系統を選抜した。発芽試験の結果、独立した4系統では、野生型と比べて変異型のGIが有意に低かった。これらの結果は、GeneAがqSdr6bの責任遺伝子であるという仮説を裏付けるものであった。また、シロイヌナズナのGeneA相同遺伝子は、膜貫通タンパク質をコードしており、グルコースに応答して発芽を制御することが考えられたため、この仮説を検証するために、外因性グルコースによる発芽遅延試験を実施した。その結果、2%グルコース処理では、NIL(Sdr6b)のGI%は76.6 ± 2.1%であり、Kshの84.2 ± 1.6%と比べて有意に低かった。さらに、グルコース処理3時間後の胚において、NIL(Sdr6b)におけるABA8ox1の発現量は、Kshと比較して有意に減少していた。つまり、GeneANonaの機能欠損型は、ABA8ox1の発現量が低下することによってABA含量が高まり、穂発芽耐性を獲得していると考えられた。本研究において、Sdr6b/GeneANonaはABA代謝の上流で、これまでに穂発芽耐性に関してほとんど報告のないグルコース応答に関与し、ABAシグナル伝達を強化させることで穂発芽耐性に導くことが示唆された。今後は、本研究で明らかにされたSdr6b/GeneANonaを利用して、昨今の異常気象にも耐え得る、新たな穂発芽耐性品種の育成が期待される。
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