研究実績の概要 |
リグニンは自然界で「真菌等による高分子構造の解体」と「生成した芳香族化合物の細菌による代謝」を経て無機化される。本研究では、申請者が開発した様々な低分子芳香族化合物の代謝を検出できるセンサー細菌を利用し、自然環境におけるリグニン由来化合物の存在と、真菌による木材腐朽時に実際に細菌がリグニン解体物を代謝するかどうかの解明を目的とした。 センサーのバリエーション拡大を図り、細菌によるリグニン由来芳香族化合物の下流代謝中間体である2-pyrone-4,6-dicarboxylic acid (PDC)のセンサーを開発した。環境細菌からPDC応答性の転写制御因子とその制御プロモーターを見出し、これらを用いたセンサーは、20μM~10 mMのPDCに対して濃度依存的に応答した。環境試料に含まれるリグニン由来芳香族化合物の情報を得るため、化合物分析を行った。結果として、木片(腐朽木・生木)や土壌においてバニリン酸、フェルラ酸、シリンガ酸等が同定された。これら化合物は、0.1グラム試料/ml懸濁液において、センサーで応答可能な数μMレベルの濃度で含まれており、実際に当該懸濁液においてセンサーの応答が得られた。一方、海水・河川水など水系試料では上記化合物は検出されず、センサーも応答しなかった。フェルラ酸センサーで応答が見られた白色腐朽菌・Phanerochaete chrysosporiumによる分解木粉についても芳香族成分の分析を行った結果、意外にもフェルラ酸等の本センサーの標的化合物の存在量はごく微量であり、応答できるレベルに満たなかった。このことは、白色腐朽菌によるリグニンの分解で生じた、化合物分析では同定できなかった多様な二量体やオリゴマーを、本センサーの宿主細菌がセンサーに応答可能な化合物に変換し、結果としてセンサーとして応答が見られたことが示唆された。
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