研究実績の概要 |
山梨県内の5つのワイナリーから提供された甲州ブドウから自然発酵を経て分離した198株について同定を行った。Hanseniaspora uvarum, H. guilliermondii, H. vinea, H. opuntiaeの1属4種で全体の約7割を占めた。畑ごとの酵母叢を比較したところ、種レベルで酵母叢に違いが見られ、同一地域の比較的近距離にある畑間でも酵母叢に違いが見られたことから、微生物もテロワールを構成する要素となりうることが示唆された。 分離株がワインの香味成分に与える影響を調査するため甲州ブドウ果汁を用いた小規模発酵試験を行った。供試株として市販のS. cerevisiae EC1118株、分離株であるS. cerevisiae K-62株さらにH. uvarum K-45株を用い、それぞれのS. cerevisiae株を単独接種したものと分離株を順次接種したワインを生成し、発酵中の菌数およびワイン生成後の成分分析を実施した。S. cerevisiaeの単独接種では、EC1118株とK-62株を比較すると、n-プロパノール、イソブタノール、イソアミルアルコールなどの高級アルコールに有意な差が認められた。順次接種では同時接種と比較して華やかな香り成分である酢酸フェネチルが増加し、n-カプロン酸、n-カプリル酸などの不快臭を軽減することが示唆され、S. cerevisiaeとH. uvarumの接種方法の違いが香味成分の特徴に影響を与えることが示された。 研究期間全体を通じ開発した運動性乳酸菌の選択分離方法を用いてワイン中から特徴的な乳酸菌を分離することが可能となり、さらに、国内のさまざまなブドウ果実に存在する酵母叢を明らかにすることができた。このことは自然発酵によるワイン醸造を行った場合、栽培地域ごとに異なる特徴を持つワインを醸造できる可能性があると考えられた。
|