研究課題/領域番号 |
21K05878
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研究機関 | 有明工業高等専門学校 |
研究代表者 |
内田 雅也 有明工業高等専門学校, 創造工学科, 准教授 (80575267)
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研究分担者 |
石橋 弘志 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (90403857)
平野 将司 東海大学, 農学部, 准教授 (20554471)
水川 葉月 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (60612661)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 海産甲殻類 / フッ素系殺虫剤 / 環境リスク |
研究実績の概要 |
分子内にフッ素原子・官能基が導入されたフッ素系農薬が盛んに研究開発され、殺虫剤の開発品の70%以上が新世代の殺虫剤と呼ばれる「フッ素系殺虫剤」である。フッ素系殺虫剤であるフェニルピラゾール系殺虫剤は、γ-アミノ酪酸(GABA)受容体に作用し、神経興奮抑制阻害により殺虫効果を示すことから、農業用から園芸用まで幅広く利用されている。しかし、近年フェニルピラゾール系殺虫剤による水環境汚染や標的外生物に対する影響が指摘され、これらの最終到達地点である海洋生態系における汚染や海産生物に対する影響が懸念されている。本研究では、フッ素系殺虫剤であるFipronil (Fip)およびその分解物(Fip-sulfide、Fip-sulfone、Fip-desulfinyl、Fip-carboxamide)の汚染実態の解明と環境リスクを評価することを目的とした。今年度は、福岡県内の複数の河川とその河口から採取した水試料についてFipおよびその分解物の濃度を調査し、海産甲殻類アミ(Americamysis bahia)の成長・成熟に対する亜慢性毒性影響を評価した。LC-MS/MSを用いた濃度測定の結果、福岡県内の河川~河口において、Fipおよびその分解物4種の汚染実態が明らかになった。また、Fipの濃度より高値を示したFip分解物が複数存在し、季節変動(総濃度:6月>7月>9月)も明らかになった。Fipとその分解物Fip-sulfide (Fip-Sf)の成長・成熟試験の結果、両物質ともに脱皮数を増加させ、それにより成長阻害する特異的な影響が観察された。以上のことから、河川・河口におけるフッ素系殺虫剤Fipおよびその分解物の汚染実態が明らかになり、FipおよびFip-Sfの検出濃度は、アミの成長阻害および脱皮かく乱の影響濃度と同程度であり、これらフッ素系殺虫剤による環境リスクが懸念された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、福岡県内の河川から河口域におけるFipおよびその分解物4種の汚染実態とその季節変動を明らかにすることができた。また、アミを用いた生体影響評価では、Fipだけでなく、その分解物Fip-Sfについても成長・成熟試験を実施し、河川・河口の検出濃度と同程度の濃度で成長・成熟に影響することに加え、脱皮かく乱作用についても明らかにすることができた。以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に調査対象とした河川や河口域から採取した水試料では、高頻度でFipおよびその分解物が検出されたため、他の農薬類の存在も危惧される。そこで、Fipおよびその分解物以外の農薬類についても汚染実態を明らかにする。一方、河川・河口で検出されたFip分解物はFip-Sf以外にも複数存在した。そこで、他のFip分解物について、アミを用いた急性毒性試験や亜慢性毒性試験を実施し、環境リスク評価の基礎資料とする。今年度に明らかになった成長阻害および脱皮かく乱については、それらの作用機序を明らかにするため、関連遺伝子の発現解析を実施、GABA受容体以外の標的分子等について考察する。
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