研究課題/領域番号 |
21K05880
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
花島 大 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 北海道農業研究センター, グループ長 (20414708)
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研究分担者 |
前田 武己 岩手大学, 農学部, 准教授 (40333760)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 堆肥 / 低温環境 / 温度 / 細菌 / RNA / 安定同位体 |
研究実績の概要 |
寒地の低温期には、堆肥化反応が起こらない、または反応が遅延する傾向にある。未熟堆肥は生育阻害物質や雑草種子の残存の問題があり、耕種農家が利用をためらう要因となる。しかしながら堆肥温度を中温域まで上昇させることができれば、その後は加速度的に温度上昇が始まる現象が認められている。そこで本研究では低温環境の打破に寄与する、堆肥化反応のスタートアップに重要な役割を果たす微生物の特定を目的に掲げた。 堆肥は一般的に不均一性が高く、堆積物の部位によって温度や微生物叢が異なる。試料の均一性や試験の再現性を確保するため、最初に堆肥化装置の創出に取り組んだ。堆肥原料である乳牛ふんと細断麦稈の混合物を0.8L容器に充填、熱電対を挿入した後に水中に浸漬し、連続通気を行った。ヒーターと冷却水の制御により水温を堆肥温度より0.5℃低い温度で追従させ、疑似的な断熱状態を作ることで、小容積ながらも微生物の自己発熱のみで堆肥化反応が進行する実験系の確立に成功した。本装置を用いて堆肥試料を経時的に採取し、次世代シーケンサーによる16S rRNAをターゲットとしたアンプリコンシーケンスを実施した。 堆肥温度は通気を開始してから3日間は初発時と同じ5℃前後で推移したが、その後上昇し、6日目には48℃に達した。主座標分析(PCoA)の結果、同一試料の繰り返しサンプル間の細菌叢の類似性は高く、堆肥試料の高い均一性を確認できた。低温条件下での温度上昇に寄与する細菌群は、温度上昇時に大幅に増殖している可能性がある。堆肥温度が5℃から12℃まで上昇する際に存在比が有意に(p<0.05)、かつ5倍以上に増加した配列を抽出した結果、Firmicutes門(5件)、Tenericutes門(1件)および未分類(1件)に分類される7つの微生物種を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り、高い均一性と再現性を担保する小型堆肥化装置を作出し、低温期から温度上昇していく過程の堆肥サンプルの取得および細菌叢の網羅解析を実施することができた。更に低温期に代謝活性を有し、その存在比が大幅に増加する複数の微生物種を特定しており、進捗状況は「おおむね順調」であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現時点では特に実験計画についての変更はない。次年度以降は、牛ふん堆肥中に存在する土着の微生物のうち、低温環境下で代謝活性を有する微生物群がいかなる基質を利用しているかを明らかにする。微生物は、原料中の炭水化物(糖)、タンパク質、脂質などを利用していると予想されることから、これら基質を堆肥中に混合し、温度上昇速度を比較する。また温度上昇効果が高い基質については、安定同位体試薬を購入し、高感度RNA-SIP(Stable Isotope Probing)法による基質の資化微生物の特定を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度以降実施予定のSIP(Stable Isotope Probing)法に使用する安定同位体試薬は高価であると予想されることから、物品購入費を当初計画より抑制して次年度繰り越し分を捻出し、同位体試薬の購入費として充当することとした。
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