低温環境下で行う乳牛ふんの堆肥化処理においては、堆肥化反応が起こらない、または反応が遅延する傾向にある。しかし温度を中温域まで上げることができれば、その後は加速度的に温度が上昇する現象が認められている。そこで本研究では低温環境下の堆肥化反応のスタートアップに重要な役割を果たす微生物及び基質の特定を目的に掲げた。本研究において作出した微生物の自己発熱のみで堆肥化の温度上昇を再現できる小型堆肥化装置を用い、牛ふんと麦稈を原料とする対照区、原料の一部をデンプン、ポリペプトン、またはオレイン酸に置き替えた試験区の温度上昇を測定した。その結果、初発の5℃から10℃まで上昇するまでに要する時間が最も短いのは対照区であり、有機基質を添加した区はいずれも対照区以上の時間を要した。一方で有機基質を添加した区では、中温域での温度上昇の勾配が対照区よりも大きいことが示された。すなわち、原料へ添加した基質はスタートアップの起爆剤として作用するのではなく、中温域以降の活発な温度上昇の際に利用されていると推測された。経時的に採取した堆肥試料からRNA抽出を行い、細菌については16S rRNAを、真菌については18S rRNAをターゲットとしたアンプリコンシーケンスを実施した。堆肥温度が5 ℃から12 ℃に上昇する際に、細菌叢ではFirmicutesおよびTenericutesに属する微子物種の、真菌叢ではMucoromycotaに属する微子物種の存在比が有意に増加したことから、これら微生物が温度の立ち上がりに寄与していると考えられた。乳牛ふんは水分が高いため、好気的条件で堆肥化することが困難な材料と考えられている。そこで堆肥の堆積物底部にスノコ状構造物を設置することで余剰水分の排出と嫌気部位の解消による堆肥化促進を試みた。その結果、構造物を導入することで低温環境下でも温度上昇促進できることを見出した。
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