研究課題/領域番号 |
21K05885
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
馬場 晶子 (笠井晶子) 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 遺伝資源研究センター, 上級研究員 (50414933)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 耐塩性根粒菌 / Agrobacterium属 / 線状染色体 / 全ゲノム解読 / 進化系統解析 / 遺伝子の水平伝播 |
研究実績の概要 |
ハマササゲ根粒菌のBradyrhizobium属, Sinorhizobium属, Rhyzobium属、3属11株について、NanoporeロングリードとIlluminaショートリードによる全ゲノム解読を実施した。結果として、アグロバクテリウム近縁種の3菌株が線状染色体を第2染色体として持つことが分かった。3菌株の線状染色体の左右の末端について精緻な配列情報に基づく比較を行なったところ、いずれについても末端から200bp程度の位置に200bp程度の緩いコンセサス配列を見出すことができた。また最末端には3菌株間で保存されている配列が検出された。 Rhizobium属細菌の中で、かつてAgrobacterium属とされていたクレードの細菌群が線状染色体を持つらしいということと、線状染色体の末端構造を生成・維持するために第1染色体に座乗するテロメアーゼ遺伝子(telA)が必須であることは既報である。しかしながら、このクレードについて線状染色体末端配列の精緻な情報を体系的に取得、比較した報告は未だにない。そこで、末端配列とtelA遺伝子の比較を通じて、アグロバクテリウム類におけるハマササゲ根粒菌の進化系統的なポジションを明らかにすることを目的に、国内及び海外の保存機関から広くアグロバクテリウム類を取り寄せ、線状染色体末端配列の詳細な解析を行うことを研究計画に加えた。現在、各機関に対して配布申請を終え、取り寄せた菌株からgDNAの抽出を始めたところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ハマササゲ根粒菌の全ゲノム解読を支援した九州大学グループの知見により、アグロバクテリウム近縁根粒菌の線状染色体についての解析が進み、アグロバクテリウム類における線状染色体の獲得という新たな進化系統研究への展開が示された一方で、本研究の当初の目的であった、根粒菌としての機能獲得、遺伝子の水平伝播についての研究を進展することができなかった。全ゲノムの配列情報をもとにハマササゲ根粒菌3属(Bradyrhizobium, Sinorhizobium, Rhyzobium)間の比較ゲノム解析を行うことのできる共同研究者を探す必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
国内及び海外の保存機関から広く取り寄せたアグロバクテリウム類について、線状染色体末端配列の詳細な解析を行い、末端配列およびテロメアーゼ遺伝子の比較を通じて、アグロバクテリウム類におけるハマササゲ根粒菌の進化系統的なポジションを明らかにする。さらに、根粒菌としての機能に着目したハマササゲ根粒菌3属(Bradyrhizobium, Sinorhizobium, Rhyzobium)間の比較ゲノム解析を推進することにより、アグロバクテリウム近縁種が根粒菌としての機能を獲得した過程について進化ゲノム解析を深める。 昨年度からの課題である異種ハマササゲ根粒菌の混合接種試験については、同所的に単離された共生細菌について徹底的に調べることとし、根粒菌以外の根圏細菌についても単離と接種を試みる。ハマササゲ根粒菌とハマササゲ根圏細菌の収集品を拡充するために、昨年度に引き続き、奄美群島からの根粒菌の採集・解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度に引き続いて先進ゲノム支援を受けることができたため、実験補助者の人件費を当初の予定より抑えることができている。また、植物防疫所への許可申請に時間がかかったため、国内外からのアグロバクテリウム購入とその後の全ゲノム解析費用として留保していた予算を、令和4年度内に使用できなかった。さらに、新型コロナ感染の影響で学会をはじめオンラインミーティングが浸透して、旅費が節約された。 これらの繰越予算については、今年度に、アグロバクテリウム購入費用、全ゲノム解析費用、学会等参加旅費、論文投稿時の英文校閲代および掲載料金として使用する計画である。
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