乳用雌牛の発情発見のための生体センサーデータは、受胎率の高い娘牛を作出する種雄牛を評価・選抜するための客観的指標として期待できる。その一方で、大規模農家を中心に導入が進む生体センサーが装着されている娘牛の飼養形態には偏りがあるため、収集される娘牛データの偏りによる種雄牛評価精度(真の能力と評価値との相関)の低下が懸念される。本研究では、全国の乳用牛群検定成績を利用して、生体センサー導入農家等、一定条件の農家だけの娘牛データによる種雄牛評価値と、全農家の娘牛データによる種雄牛評価値との相関を調査し、データ収集農家の偏りと評価精度の低下との関係を検証した。 生体センサー導入農家を想定した牛群サイズの大きい農家や繁殖成績の良い農家を抽出し、抽出農家の娘牛データのみによる種雄牛評価値と全農家の娘牛データによる種雄牛評価値を比較した。その結果、抽出データによる評価値に偏りが生じ、その程度は抽出率、遺伝率、および牛群内分散により異なった。一方、同じ抽出率であれば、評価値の正確度(全農家データによる評価値との相関)は、ランダム抽出データによる評価値の結果と変わらなかった。 全国の牛群検定農家約7000戸を対象に生体センサー導入の有無と飼養形態、給餌形態、搾乳形態等に関するアンケート調査を牛群検定成績収集機関への委託により実施し、4割程度(約3000戸)の農家から回答を得た。回答農家のうち、2割以上が何らかのセンサーを利用していた。センサー利用開始年が最近の農家が多いため、センサー利用開始以降の繁殖成績が蓄積された段階で、センサー利用農家の娘牛データのみによる種雄牛評価を実施し、評価精度を検証する計画である。 本成果は、偏った少数の牛群データに基づくゲノミック評価が国際的に開始され始めた現在に生じているバイアスに関する原因の探求および補正の検討において重要な知見となる。
|