体外受精胚の移植では受胎率および産子率が低い。これまでの多くの研究にもかかわらず改善されていない。このことは新規のアプローチが必要であることを示している。これまで着床と妊娠の成立に関する研究に取組み、マウス胚の着床能力獲得過程に関するタンパク質の発現や分解の制御機構について新知見を報告してきた。また、それらの分子機構を指標として、胚盤胞における遺伝子とタンパク質の発現を培養系で賦活化し、母体由来のシグナルに対する応答能力を高めた状態にして子宮へ胚移植するというアプローチで、マウス体外受精由来胚盤胞の着床能力を改善する手法を構築した。着床率が改善されたということは、通常の培養系では着床しない胚における着床能力に正の効果があった結果である。一方、胚盤胞が着床能力を獲得する分子機構の解明には、着床能力において負に作用する因子も同定し、それらを組合せて解析することが有効である。 そこでアルギニン(Arg)とロイシン(Leu)がマウス胚の着床能力関連因子の発現に及ぼす影響を解析した。マウス胚用の培養液にArgまたはLeuを添加し、胚盤胞を培養後に胚移植を行ったところ、Argは着床率を低下させたのに対し、Leuは着床率に影響しなかった。一方で、ArgとLeuの複合処理は着床率を上昇させた。O2消費量はArgおよびArg+Leuにより低下した。活性酸素種(ROS)はArgで上昇し、Arg+Leuによりさらに上昇した。着床関連因子であるインテグリンα5β1(ITGA5B1)発現は、Argでは変化せず、Arg+Leuで上昇した。Arg+LeuによるROSレベルは上昇は、ROSレベルを低減させるグルタチオンペルオキシダーゼ4(GPx)低下に起因していた。 以上のことから、Arg+LeuではROSの上昇に伴い、ITGA5B1の発現が上昇することで着床率が改善された可能性が示唆された。
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