研究課題/領域番号 |
21K05909
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
江草 愛 日本獣医生命科学大学, 応用生命科学部, 准教授 (90521972)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カルノシン / ノックアウトマウス / 運動 / 脂質代謝 |
研究実績の概要 |
本研究は、骨格筋と大脳・嗅球に特異的に存在するカルノシンの生理的役割について、運動時のエネルギー代謝の面から明らかにすることを目的としている。 昨年度は骨格筋細胞(C2C12)にカルノシン合成酵素(CARNS1)遺伝子を強制導入したもの(WT型)と、CARNS1のATP結合部位を欠損させたKO型を遺伝子導入したものを用いて、電気刺激によるATP産生能の比較を行った。 尚、C2C12は筋芽の状態では遺伝子導入効率が良いものの、筋管に分化させると導入効率が1/20にまで減少する。しかし、合成されるカルノシン量は筋芽に比べると筋管では1/5程度にとどまっていた。この理由としては、筋管に分化させることで、カルノシンの基質であるβアラニンのトランスポーターの発現量が増加が影響していたことが挙げられた。すなわち、筋線維に分化することで、カルノシンの合成が促進されるように変化したと考えられた。 次に、各々の遺伝子導入した筋芽を用いてATP量を測定したところ、WTでATPの産生能が増加した。この結果は、カルノシン合成酵素遺伝子の一部を欠損させてカルノシンを全身で作れないノックアウトマウスの骨格筋でも同様の結果が得られた。また、グリセロール3リン酸量が野生型で有意に多く検出されたことから、FADH2を用いた酸化的リン酸化反応によるATP合成が行われたと考えられた。一方で、ATPとADP、AMPから算出されるアデニレートエネルギーチャージはいずれの遺伝子型導入でも変化がなく、細胞内の総エネルギー量には違いがないと推察された。また、KO型では乳酸量がやや多く、ピルビン酸量が少なかったことから、低酸素代謝が促進していると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通りに進捗している。 KOアウトマウスの産仔数(雌雄数)が揃わず、マウスを使った実験がやや遅延しているが、人工授精を行うことにより、予定数のマウスが得られた。従って、若干の遅延(約3か月)のみで、計画は順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、細胞を使った実験系においては、カルノシン合成酵素(CARNS1)を導入した細胞と、その遺伝子の一部を欠損させた遺伝子を導入した細胞を用いて、クレアチン負荷のあり/なし条件で脂質代謝に関わるFABP3やβ酸化に関わる遺伝子の発現量を測定する。また、低酸素条件下で運動負荷させた(高強度運動を想定)場合のATP産生量や脂質β酸化に関わる酵素群の発現変動を遺伝子レベルならびにタンパク質レベルで比較する。 さらに、カルノシン合成が出来ないKOマウスを用いて、流水式強制遊泳による高強度運動負荷の後、速やかに摘出した筋肉を用いて、酸化的リン酸化に関わる物質(ATP、ADP、クレアチンとクレアチンリン酸)を測定する。また脂質のβ酸化に関わる酵素群の変動を測定し、細胞レベルの現象と、生体レベルでの現象の比較を行う。 尚、運動に関しては雌雄差が認められるため、両方の性を用いて試験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
該当年度は予定していた動物実験が一部出来なかったこともあり、次年度への持ち越しが生じた。予定していた動物実験が実施できなかった理由としては、自家繁殖を行っているため、想定より雌雄の偏りが生じたり、産仔数が十分得られなかったためである。これを解決すべく、人工授精による増産を年度末に実施し、十分な産仔数が得られたため、次年度には予定していた実験が行える運びとなっている。
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