令和5年度は、カルノシン合成酵素遺伝子欠損(KO)マウスを用いて、流水式強制遊泳による高強度運動負荷の後、速やかに摘出した筋肉を用いて、酸化的リン酸化に関わる物質(ATPやADP、クレアチンとクレアチンリン酸)と脂質代謝に関わる遺伝子FABP3やACAD-L、PDK4、PGC-1α、PPARδを測定した。 KO型あるいはその対照となるヘテロ型の20週齢雄性マウスを、水温34℃、流量8m/分の条件下で疲労困憊(鼻先が水面に出なくなって5秒)になるまで泳がせ、速やかに前脛骨筋を採取した。疲労困憊に至る時間は、KO型でヘテロ型の約1/3であった。運動直後の骨格筋のFABP3遺伝子発現量はKO型がヘテロ型より2倍高く、この他ACAD-L(アシルCoAデヒドロゲナーゼ)の遺伝子発現量も同様にヘテロ型の2倍発現量が多かった。一方、PPARδ遺伝子はKO型で2割ほど低い値を示した。この他の遺伝子に違いは認められなかった。 当初、カルノシンはクレアチン存在下でFABP3を介して脂質酸化に働くことを期待して実施したが、KO型でFABP3の遺伝子発現量が高く、脂肪酸の分解や代謝に関わるACAD-LならびにPPARδの発現量も高くなり、当初の予想と異なる結果となった。KO型マウスでは、酸化的リン酸化反応に関わるNADH量が野生型の1.3倍ほど多く存在していたことからも、カルノシンKOマウスをつかった実験においては、高強度運動時においてカルノシンが脂質のβ酸化を介してATP産生能を上昇させる手掛かりを見つけられなかった。
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