研究課題/領域番号 |
21K05912
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
ソムファイ タマス 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (90547720)
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研究分担者 |
原口 清輝 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (10324576)
菊地 和弘 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, グループ長補佐 (20360456)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ブタ卵子 / ガラス化保存 / DNA二本鎖切断 / DNA修復機能 / 胚盤胞発生 / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
最初の実験では、未成熟(GV)段階の卵子または前核期受精卵(接合子)の段階でのガラス化後、正常な受精が得られるが、成熟段階では得られないことが明らかになった。したがって、成熟卵子のガラス化はその後の研究から除外して、未成熟卵子と前核期受精卵のDNAのインテグリティ(完全性)に対するガラス化の影響を比較した。 ガラス化は、未成熟卵子ではDNA二本鎖切断(DSB)のレベルを有意に増加させたが、前核卵子では増加されなかった。未成熟卵子を凍結保護剤で処理しても、DSBレベルへの影響は認められなかった。さらに、ガラス化した未成熟卵子から得られた初期(卵割期)の胚も、非ガラス化対照と比較して割球数の減少に関連するDNAのDSBレベルが増加していた。 このような異常は、前核期にガラス化した受精卵から発生する胚では観察されなかった。DNA修復遺伝子Rad51は、ガラス化した未成熟卵子から得られた4~8個の細胞胚で発現上昇が認められたが、ガラス化した受精卵から得られた胚では認められなかった。 卵子が未成熟段階でガラス化され、その後IVMおよびIVFに使用された場合、胚盤胞期への胚の体外発生能力、ガラス化されていない対照区と比較して有意に低下した。しかし、ガラス化した受精卵の胚盤胞期までの発生能は、対照区と同様であった。GV期または前核期でのガラス化は、胚盤胞への発生における総総細胞数およびアポトーシス細胞の割合に影響を及ぼさなかった。 結論として、本結果は、DNAの完全性と発生能について、受精卵の段階でのガラス化が、未成熟または成熟卵子段階でのガラス化よりも有利であることを明らかにした。したがって、本研究課題において、2年目と3年目における実験では、ゲノム編集されたブタ胚の生産については、ガラス化受精卵を使用することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験は当初の研究計画に従って実施された。当成熟卵子のガラス化したついても調査する予定であったが、予備実験において、未成熟段階と成熟段階で(改良されたプロトコールを用いて)ガラス化した卵子の受精正常性を比較したところ、成熟卵子のガラス化後は正常な受精が得られなかったため、この実験区を以降の実験計画から除外することとした。 本年度の成果として、H2AX免疫染色と蛍光強度測定法を確立して、ブタ卵子と胚のDNA二本鎖切断(DSB)のレベルを解析した。未成熟期の卵子または前核期受精卵をガラス化しDNAの完全性に及ぼす影響を比較した。未成熟卵子のDSBレベルに対する凍結防止剤の影響について検討をした。未成熟卵子をガラス化・加温後に体外成熟・受精により発生した卵割胚ならびに、体外成熟・受精後の受精卵をガラス化・加温後に発生した卵割期胚において、DSBレベルを測定した。DNA損傷修復プロセスのさまざまな経路に関与する7つの遺伝子の発現を、リアルタイム定量PCRによって4~8個の細胞胚を用いて分析しした。さらに、胚盤胞期までの胚の発育能と、得られた胚盤胞の質を、総細胞数と(TUNEL法により)アポトーシス細胞の割合を解析することにより調べた。以上より、研究の前半(令和3-4年度)の主な目的(ゲノム編集のための卵子凍結保存の最適な段階を定義すること)はすでに達成された。 本課題の2年目では、計画に従い、ガラス化卵子、受精卵およびその後の発生段階の胚におけるRad51発現(タンパク質レベル・免疫染色による)の調査、およびゲノム編集されたブタ胚の生産するため、これまで確立した手法を用いてガラス化した受精卵におけるCrisprCas9の適用について検討する。研究成果は計画通りに発表する。原著論文1報と学会発表2報(国内1回と国際1回)を公開/提出済みである。さらに、2報目の原著論文を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
1.令和4年度でガラス化した卵子とその後の発生中の胚におけるDNA修復メカニズムを調査する。まず、Rad51免疫染色法を、未成熟卵子と4~8細胞期胚で確立する。次に、Rad51の発現を、対照区、GV期卵子のガラス化区および受精卵のガラス化区におけるの4~8細胞期胚で免疫染色して調査し、以前のRT-qPCRの結果について検証する。次に、IVM中にガラス化した卵子でDNA修復がすでに始まっているかどうかを調査する。この目的のため、Rad51とH2AXの共免疫染色法が確立され、体外成熟中のガラス化した未成熟卵子におけるそれらの共局在について調べることが可能となる 2.ガラス化保存後の卵子を利用したゲノム編集胚の作製とその評価 分担者は、ゲノム編集技術を用いた豚腎由来株化細胞のCD46遺伝子ノックアウトに成功している。そこでこれをブタ体外受精卵に応用し、先ずは実験系を確立する。Cas9タンパク質gRNA複合体(RNP)をマイクロインジェクション法とエレクトロポレーション法を用い、最適な導入時期を検討しながら胚盤胞期まで培養する。個々の胚盤胞からゲノム抽出後にシーケンス解析を行い、胚盤胞発生率とゲノム編集効率を総合的に評価し、最適なプロトコールを決定する。CD46:ガラス化保存由来および通常の体外受精卵(コントロール)のゲノム編集を同条件下で行う。これを複数回繰り返し、表現型に着目しつつ胚盤胞発生率とゲノム編集効率を数値化し有意差を調べる。OCT4:遺伝子内の任意のPAM配列数カ所を選び、in vitro切断アッセイにより最適な標的部位を決定した後、上記同様にゲノム編集を行い評価する。以上の結果を通して、ガラス化保存由来ゲノム編集胚の効率的生産に至る最適なプロトコールを作出する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった試薬数品が期間内に納入されなかったため、次年度に購入するため。
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