がん組織は、がん細胞だけで形成されるのではなく、がん関連線維芽細胞(CAFs)をはじめとした様々な細胞が混在し(がんニッチ)、がん微小環境を構成していることが知られている。そのため、がん細胞とがん微小環境の相互作用は、がんの病態を理解する上で重要な現象として注目を集めている。近年では、CAFsはがん細胞により教育され,がん微小環境において重要な役割を果たすことから、CAFsは新しい切り口に立った抗腫瘍薬の創薬標的として注目されている。申請者は,正常組織の筋線維芽細胞とCAFsの違いを明らかにすることが,新規抗がん戦略の創出に不可欠と考え、2021年度より本研究課題を実施している。また、申請者がこれまで行ってきた研究を元に、CAFのSET発現上昇ががん微小環境に果たす役割を解明することで,筋線維芽細胞を標的とした抗がん戦略の基盤を構築することを目的として実施している。一方、SETは、多くのがん細胞において発現の上昇が確認されている「がん促進因子」である。申請者等は以前、大腸がんおよび胃がんの組織において、SET ががん細胞だけでなく一部のCAFs にも発現していることを見出し報告している。その後、SET がCAFs のサイトカイン分泌に与える影響を網羅的に解析したところ、SET発現抑制により、大腸がんや胃がんの予後不良マーカーであるオステオプロテジェリンの分泌が低下する可能性が示された。これまでの成果を2022年度末にCancer Scienceへ投稿したがアクセプトされず、その後1年間をかけてレフリーコメントに対応するための実験を行ってきたが、現時点ではまだ再投稿に至っていない。科学研究費は途切れるが引き続き実験を実施し、採択を目指して投稿予定である。
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