カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)は国内外の主要な細菌性食中毒の原因菌で、鶏肉とその関連食品が原因食品として重要視されている。 農場でC. jejuniを保菌した鶏が食鳥処理場に搬入されると、食鳥と体全体が菌に汚染されるため、その付着メカニズムの解明と制御法の確立が喫緊の課題である。本研究課題では、C. jejuniと鶏と体皮膚 の付着に関与する菌体側の非蛋白の付着因子の存在を明らかにすることを目的としている。C. jejuniの外膜に発現する非蛋白の主要な構造物は、莢膜、リポオリゴ糖(LOS)である。また、リン脂質はLOSと莢膜を橋渡ししていることが報告されている。本研究課題では、遺伝子改変技術で莢膜欠損株の作製が確立している莢膜に焦点を当て、令和3年度に莢膜の輸送蛋白をコードする遺伝子(kpsM)およびリン脂質の生合成酵素をコードする遺伝子(pldA)のノックアウトミュータントを作製した。これらの変異株には莢膜が欠損していることを確認した。令和4年度は、これらの変異株に加え、鞭毛欠損変異株(flaA、flaB)を作製し、ブロイラー皮膚への付着性を比較した。その結果、変異株のうち、莢膜を欠失したkpsM変異株とpldA変異株の皮膚への付着菌数が野生株および鞭毛欠損変異株に比べ有意に減少した。令和5年度は、kpsMおよびpldA変異株にノックアウトした遺伝子の相補試験を試みたが、遺伝子を補完できなかった。そこで、野生株から莢膜を精製し、得られた莢膜を鶏の皮膚上皮に添加した後に、野生株の皮膚への付着性を調べた。その結果、添加する莢膜の濃度に依存して、野生株の皮膚への付着性は減少した。これらの結果から、C. jejuniの莢膜が鶏皮膚の付着因子であることが示唆された。
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