昨年度すでに肥満細胞腫を形成したマウスにおいてニコチンアミドの連続投与による腫瘍の増大抑制を見出していたため,再現性について調べたところ,ニコチンアミド投与群では溶媒投与群と比較して平均腫瘍体積の増加が有意に抑制されていることが複数回の実験において明らかとなった.連続投与後のマウスから採取した腫瘍重量についてもニコチンアミド投与群の方が溶媒投与群に比べ低い結果であった。これらよりニコチンアミドはマウスモデルにおける肥満細胞腫に対して抗腫瘍効果を示すことの再現性が確認できた。しかしその一方で,ニコチンアミド投与群は実験回によっては溶媒投与群と比べ生存率の低下が見られた.ニコチンアミドの投与量などのさらなる検討が必要である.投与7日後のそれぞれの群から腫瘍および脾臓を採取,シングルセルを調製し抗体染色後フローサイトメトリーを行ったところ,ニコチンアミド投与群の腫瘍および脾臓では溶媒投与群と比較してT細胞の割合が有意に高く、CD8 陽性、CD4 陽性 T 細胞のそれぞれの割合についても有意に高く,腫瘍内へのリンパ球浸潤が促進されていることが推測された.また,in vitroでの検討も去年に引き続き行った.ニコチンアミド処理によりマウス肥満細胞腫細胞のアネキシンV陽性細胞の割合が有意に増加し,アポトーシスを誘導していることは昨年度と同様に確かめられた.しかし,膜型エストロゲン受容体GPERの選択的アゴニストであるG-1によってマウス肥満細胞腫細胞にアポトーシスを誘導した際に見られた,ミトコンドリア膜電位差の破綻は認められず,むしろミトコンドリア活性化を示す結果が得られた.これらの結果ならびにGPER欠損マウス肥満細胞腫細胞株の解析の結果から,ニコチンアミドによる細胞死誘導経路はGPERのそれとは少なくとも一部は異なっていることが考えられ,今後この違いを明らかにしていく必要がある.
|