研究実績の概要 |
本研究では「犬種」という軸を利用してイヌの疾患を疫学的に解析し、疾患の背景に潜む遺伝的要因を網羅的に探索する。「特定の疾患がある犬種で発生しやすい」のは小動物の臨床現場でよく知られる現象だが、その因果関係が科学的に証明された事例は多くない。本研究では、犬種と疾患の因果関係を明確にすることを目的とし、大規模かつ疾患網羅的なゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施する。 初年度となる2021年度では、本研究のベースとなる診療情報について整理し、各犬種について疾患のオッズ比を解析し、好発疾患を抽出した。本センターで診断された約20,000件のイヌの症例データを用いて、特定犬種に好発する疾患について解析したところ、600,628個(4,516疾患×133犬種)の組み合わせのうち、犬種特異性の高い組み合わせを126個特定した。れらの中には「バーニーズ・マウンテンドッグの組織球肉腫」「パグの壊死性髄膜脳炎」など、国内外の報告で既に広く知られている組み合わせが多く含まれるが、「ジャック・ラッセル・テリアの胃腺癌」など、これまでの海外の報告では知られていない組み合わせも抽出され、今まで明確にされていなかった国内固有の新規の犬種特異性疾患である可能性が示唆された。また、国内で飼育頭数の多いミニチュアダックスフンド犬では、根尖周囲膿瘍、歯周炎、唾液粘液嚢胞、唾液腺嚢胞などのロ腔疾患のほか、悪性黒色腫、軟骨肉腫、肛門嚢腫瘍、上皮小体腺腫、骨髄異形成症候群、前立腺癌、乳腺腫瘍など様々な腫瘍疾患が抽出され、遺伝的に様々な疾患に罹りやすい犬種であることが示唆された。
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