研究課題/領域番号 |
21K05936
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
日下部 健 山口大学, 共同獣医学部, 教授 (20319536)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 網膜 / 補体 / C3 / C3aR / 硝子体 / 水晶体 |
研究実績の概要 |
ニワトリでは胎生期に補体因子C3aと受容体C3aRが網膜の細胞分化に関わることが知られている。我々は以前に、妊娠マウスにおいて補体因子が様々な組織で産生されていることを示している。母体由来のC3aが胎子の眼球形成に寄与するか、その可能性を検討した。 眼胞~眼杯の形成期に相当する胎齢10~14日のマウス胎子、および同時期の母体を用いた。胎子頭部、母体の肝臓、胎盤、乳腺について、ウェスタンブロットで前駆体C3とC3aを検出し、10~14日における動態変化を調べた。同じサンプルについてmRNAを抽出し、リアルタイムPCRでC3aRの遺伝子発現を解析した。免疫染色によりC3とC3aの局在部位について調べた。 母体組織ではC3タンパクが妊娠10~14日で持続的に検出された。C3aも同様に妊娠10日で検出され、とくに胎盤と乳腺組織で著明であった。胎子組織においてもC3が含まれていることが10日齢から確認できたが、C3aが検出できるようになったのは14日齢であった。C3aの受容体であるC3aR遺伝子は、胎子において発現頻度が非常に低かった。調査期間で発現が高かった時期は12日であったが、すでに眼胞期には終了しており、網膜細胞の初期分化には影響しないことが予測された。 C3aタンパクの陽性反応は網膜において認められず、水晶体に局在していた(14日齢)。前駆体を含むC3タンパクは12・14日齢の眼球において、硝子体血管と網膜最内層が強い陽性反応を示し、閉鎖しつつある水晶体腔の周囲においても弱陽性反応が見られた。 ニワトリの網膜分化に重要と考えられているC3a/C3aRは、マウスの網膜の細胞分化には関与性が低いと考えられた。一方で、マウス胎子は母体組織からC3の供給を受けており、眼球においても血行性に分布していることが予測された。細胞分化以外のC3に依存した生理機序、例えばマクロファージによる貪食誘導機序などが、眼球の発生・成長過程に関与する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予測していた「C3a/C3aRによるマウス網膜への分化過程への寄与」について否定的な結果が認められ、仮説を却下するために複数の実験での検証を必要とした。一方で、妊娠期において胎子が母体由来のC3タンパクを血行性に受けているという予測は当たり、C3が胎子発生、成長過程に関わっている可能性は拡張した。
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今後の研究の推進方策 |
前駆体C3を起源とするタンパクにはC3a以外にiC3bがある。本年度の検証の結果においても、iC3bと予測される分子量のタンパクが、胎子体内で検出された。iC3bの受容体はCR3で、別名CD11bと呼ばれマクロファージ系細胞のマーカー分子でもある。その中でもCD11b陽性ミクログリアは発生期の脳組織において、余分な神経細胞を貪食して組織の構築過程に関与していると考えられている。 胎子におけるCR3遺伝子を調べると、10~14日齢での発現頻度は非常に低かったが、生後7日齢の網膜において比較的高いピークが認められた。我々の先行研究において、マウス新生子の網膜は細胞層が厚くなり、神経線維層が薄くなることを見出している。新生子網膜の神経細胞の動態とC3タンパクの関与について、検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
標的因子であるC3を効果的に発現抑制する実験計画のため、胎生期で働く時期を検索していたが、胎生期におけるC3の網膜分化への影響が低いことが判明した。よって、発現抑制実験を中止とし、予定していた実験にかける費用が必要なくなった。しかしながら、出生後に効果を持っている可能性は否定できず、次年度には出生後の解析に研究の主体を変更する。抑制実験も出生後の時期を対象に実施する予定である。
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