ニワトリでは眼杯形成初期において、補体因子C3aと受容体C3aRが網膜の細胞分化に関与することが知られている。前年度において、マウスでは胎盤、乳腺、肝臓においてC3aが産生されていることを示した。一方で、C3aRは胎子の眼球内で発現していたが、眼杯の形成後期で網膜分化は既に進んでおり、C3aを含む補体C3は網膜に局在していなかった。よって、C3a/C3aRシステムはマウスでは胎生期の網膜の分化に関与しないと考えられた。 補体C3は限定分解によってC3aのほかにC3bも産生する。C3bの受容体であるCR3はミクログリアが特異的に発現しており、ミクログリアは死細胞や余剰の神経突起・シナプスを貪食する。一方で、我々は出生後の網膜は成長するにつれて薄くなることを示した。成長期における網膜の薄化メカニズムへのミクログリアの関与について、CR3の網膜の動態変化の解析を起点として研究を行った。 マウス新生子網膜において、CR3は生後7日から発現量が増加し、解析した56日目(性成熟期)まで増加を続けた。この増加は、網膜の薄化変化と逆相関の関係にあった。しかし、ミクログリアの主要なマーカーであるIba1について解析すると、生後7日以降は出生直後での発現量から半減しており、CR3の成長期・網膜内変動と一致しなかった。Iba1の網膜内局在を調べると、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層において検出されたが、成長期間において大きな数的変動は認められなかった。CR3の局在は網膜の視神経線維層で認められ、Iba1と局在性は一致しなかった。 C3bとCR3に制御されるミクログリアは、網膜内に存在するミクログリアの一部であり、網膜の薄化に関与する一群ではないことが予測された。一方で、Iba1陽性ミクログリアの生後網膜での役割は不明であり、現在検討を続けている。
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