研究課題/領域番号 |
21K05940
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
中川 博史 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (60336807)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 微小プラスチック / ポリスチレン / リソソーム / オートファゴソーム / エンドソーム / Caco-2細胞 |
研究実績の概要 |
経口摂取された微小プラスチックが暴露標的である消化管粘膜にどのような毒性を与えるのかを明らかにする必要がある。培養腸管上皮細胞に取り込まれた微小プラスチック粒子がリソソームに集積する事例に着目し、プラスチック粒子のリソソームの機能に対する影響について検討を行い、微小プラスチック毒性の新たな作用点・作用機序の解明を目的として研究を実施した。 腸管上皮モデル細胞株であるCaco-2細胞を用いて、直径0.1 μmのポリスチレンビーズを細胞に取り込ませた結果、細胞内に点状にポリスチレンビーズの集積が見られる場所が認められ、リソソームであることが確認できた。ポリスチレン粒子を取り込んだ細胞のリソソームは膨化した。またリソソームの障害の有無を調べたところ、リソソーム膜に微弱ながら透過性亢進が生じていることが明らかとなった。リソソーム機能の抑制が生じているかを明らかにするために、リソソームにより消化分解される細胞内微小器官の動態を調べたところ、後期エンドソームおよびオートファゴソームの数の増加が認められた。またリソソームでのオートファゴソーム消化分解の阻害剤であるクロロキンを処置したにもかかわらず、オートファゴソームの数・サイズがより増加することは無かった。以上のことから、リソソームの消化分解機能が蓄積したポリスチレンビーズの影響により抑制され、後期エンドソームやオートファゴソームといった、本来リソソームで消化分解を受ける細胞内小器官が細胞内に滞留している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
直径0.1 μmの蛍光ポリスチレンビーズをCaco-2細胞に取り込ませ、リソソーム内にポリスチレンビーズの集積が見られることが確認された。まず細胞内へのビーズ取り込み量について、処置濃度と取り込み量の間に相関が得られなかった。また取り込み量と処置時間経過との関連は、数時間であるとの予想とは異なり、分単位の非常に早い時間経過を示し、これまでの所、統計処理に耐えうる結果を得られておらず、新たな実験手法の適応が必要であるとの結論に至っている。またリソソームの膨化が起きていることが明らかとなったため、リソソーム機能障害の有無を調べるために、膜の破綻があった場合にリソソーム腔内に集積し蛍光を発するmAzG-Galectin3発現プラスミドを導入した細胞にポリスチレンビーズを取り込ませたところ、一部の細胞で斑状の蛍光が検出され、リソソーム膜透過性亢進が生じていることが明らかとなった。オートファゴソームと後期エンドソームの数・サイズへの影響も見られたこと、そしてオートファゴソーム分解抑制剤クロロキン処置により滞留したオートファゴソームの数の増加が見られなかったことから、これら細胞内小器官の数の増加は増生によるものではなく、リソソームでの消化分解が抑制された結果であることが示唆され、リソソーム機能障害が起きたと考えられる。オートファゴソームの観察に、使用予定であったGFP-LC3タンパク発現プラスミド導入による蛍光顕微鏡観察ではなく、簡便なMonodansylcadaverine染色法を用いた結果しか得られていないため、間接的なオートファゴソーム蓄積の証明を行っているに過ぎず、研究成果として論文投稿するためには、早急にGFP-LC3タンパク発現細胞の作出を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
得られた結果については、事前に予想した結果と大きな差異は認められなかったため、研究目的・方針に大きな変更はない。よって、遅れている2021年度実施予定の一部項目を早急に進め、予定通り2022年度実施予定項目に着手することが可能であると考えている。 2021年度実施予定であった研究内容の改善法としては以下の方策にて改善を試みる。細胞内に取り込まれたビーズ量を測定するために、ビーズの蛍光強度を生細胞イメージングを用いて検出していたが、検出感度の問題があり定量的なデータ解析に難があると考えられた。そこで固定標本を作製し、通常の蛍光顕微鏡観察をもって細胞内取り込み量の検出・定量化を行うことを検討する。取り込みの時間経過についても予想外であった分単位の変化を観察する目的で固定標本を用いた観察法を検討する。 2022年度実施予定のリソソーム障害の詳細な解析については、2021年度においてmAzG-Galectin3タンパク発現プラスミドを用いた実験系を用いて、リソソーム膜透過性亢進がプラスチックビーズにより惹起されることを明らかにすることが出来た。2022年度においてはリソソーム内腔局在酵素の細胞質への漏出が起きているのかについて証明を試みる。また現在使用している表面修飾と異なる修飾を持つ荷電状況の異なるポリスチレンビーズ、またはポリスチレン以外のビーズについても、今回得られた結果と同様に細胞内に取り込まれるのか、リソソーム障害性を持つのかについて検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の研究実施項目に遅れがあったため試薬購入の減少により予算余剰が生じた。 GFP-LC3タンパク発現プラスミドをCaco-2細胞に導入し、オートファゴソーム形成の量的変化を蛍光顕微鏡観察により実施する予定であったが、GFP-LC3タンパク発現プラスミドの導入効率が非常に低く、期間内に使用に耐えうる細胞を得ることが出来なかった。そのためGFP-LC3プラスミドのコンストラクトの確認・再検討を行ったため、未だプラスミドの至適導入条件の探索に取り掛かることが出来ていない。そのため、当初予定していた複数の遺伝子導入試薬の購入に至っていない。その結果、遺伝子導入試薬3種の購入予定金額であった約20万円の予算余剰が生じた。 また、リソソーム障害が予想された本実験条件下では、細胞内pHの低下が生じる可能性があり、酸性条件下では蛍光が減弱するGFPタンパクを緑色蛍光タグとして用いるGFP-LC3タンパクの蛍光観察が不可能な状況が想定されていた。その場合LC-3タンパクに付加したGFPを、pH非感受性の蛍光タンパクに交換したものを導入する予定であったが、上述の通りプラスミド導入効率そのものが低い状態であるため、購入に至っていない。そのため約2万円の予算余剰が生じた。
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