研究課題/領域番号 |
21K05943
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
小林 朋子 東京農業大学, 農学部, 准教授 (30647277)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 牛伝染性リンパ腫 / 牛伝染性リンパ腫ウイルス / Bovine leukemia virus |
研究実績の概要 |
牛伝染性リンパ腫ウイルス(bovine leukemia virus : BLV)は、レトロウイルス科に属するRNAウイルスである。BLVに感染すると、約5%が牛伝染性リンパ腫を発症する。日本におけるBLVの感染率は約40%、牛伝染性リンパ腫の年間の届出件数は約4,000頭であり、年々増加の一途をたどっている。発症牛は、と畜場法により全部廃棄の適用を受けることから、経済的損失の大きな疾病であり、原因となるBLVの蔓延防止や感染制御は日本の畜産農家にとって喫緊の課題となっている。 BLVのエンベロープ配列は、BLVゲノム中で最も多様性に富むことから、遺伝子型の分類に使われており、これまでに11種類の遺伝子型が報告されている。この中で、最も世界に蔓延している遺伝子型は1型であり、最も家畜牛に効率よく感染するようなエンベロープ配列をもつ可能性がある。しかしながら、エンベロープ配列の違いが本当に感染性に影響しているかどうかについては、不明のままである。 ウイルスタンパク質の機能は、プラスミドにクローニングしたウイルスゲノム配列に機能喪失変異や、機能付加変異を導入し、変異ウイルス粒子を作製し、その影響を定量することにより評価することができる。BLVに関してはBLVゲノムを発現するプラスミドがいくつか報告されているが、ウイルス感染の初期段階を簡便かつ定量的に解析できる実験系はほとんど確立されていない。本研究では、GFPをレポーターとするBLV感染性分子クローンを作製し、感染を定量化する手法を検討した。また、効率的なレポーターウイルス産生を実現するために、BLV粒子を恒常に放出する細胞において高発現しているBLV挿入部位近傍遺伝子をクローニングし、恒常発現細胞を作製することにより、効率的にBLV粒子を発現する細胞株の作製を行った
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、BLV粒子を効率的かつ持続的産生する羊腎由来株化細胞(FLK-BLV)において、BLVプロウイルスゲノムの挿入位置近傍にMyc遺伝子およびRASA2遺伝子が存在することを明らかにしてきた。これら二つの遺伝子発現がBLVの効率的な産生に影響している可能性を検討するため、まず、羊腎由来株化細胞においてリアルタイムPCR法により両遺伝子の発現量を定量した。その結果、BLV非感染であるその他の羊腎由来株化細胞と比較してFLK-BLVにおいて両遺伝子の発現量が多かった。次に、これらの遺伝子発現プラスミドを構築し、BLV感染性分子クローンと共に293細胞に遺伝子導入し、培養上清中に放出されたウイルスRNAをRT-PCR法により定量した。その結果、両遺伝子を導入した場合に上清中に放出されるウイルス由来のRNA量が上昇することを見出した。これらの結果より、Myc遺伝子およびRASA2遺伝子の発現がBLVの効率的な産生を可能とすることが示唆された。 また、BLV感染を簡便かつ定量的に解析する実験系の確立を目指し、BLV発現プラスミドのGAG遺伝子の5'側あるいは3'側にレポータータンパク質であるGFPをコードする遺伝子配列を挿入しGFPを感染指標とするBLV発現プラスミドを作製した。また、FLK-BLV細胞株において見出した3‘欠損BLVを発現するプラスミドの構築を行った。 さらに、BLVエンベロープ遺伝子多様性が感染効率と関連するかどうかを検討する際に使用する様々な遺伝子型のBLVエンベロープ発現プラスミドを作製するために、東南アジアやロシア、中国由来のBLV感染動物の検体分与を受け、BLV遺伝子の検出とエンベロープ遺伝子のクローニングを行った。
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今後の研究の推進方策 |
Myc遺伝子およびRASA2遺伝子の発現がBLVの効率的な産生を可能とすることが示唆されたことから、レンチウイルスベクターを用いて両遺伝子の恒常発現細胞株の作製を行い、BLV粒子高発現細胞株を作製する。また、様々な遺伝子型のエンベロープを発現するBLV感染性分子クローンを作製し、各遺伝子型ごとの感染性を定量的に評価する実験系を確立する。さらに、BLVの宿主ゲノムへの組込より後の感染ステップである、感染後期過程に必要な遺伝子群を欠損するように変異を挿入した変異クローンを作製し、感染初期のみを定量できる実験系についても検討する予定である。
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