研究課題/領域番号 |
21K05944
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
佐藤 真伍 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (60708593)
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研究分担者 |
丸山 総一 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (30181829)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | Bartonella quintana / サル / 吸血性節足動物 / 細菌叢 / Puchtella属 / Coxiella属 / Rickettsia属 |
研究実績の概要 |
Bartonella quintana(バルトネラ・クインターナ)は塹壕熱の起因菌で,コロモジラミによって伝播される。人はB. quintanaの唯一の自然宿主であると考えられてきたが,近年,Macaca属サルも本菌を保有していることが明らかとなった。中国の研究では,研究用アカゲザルのサルジラミからB. quintana DNAが検出され,サルジラミも本菌のベクターである可能性が示されている。 2022年度の本研究では,2021年度に引き続き,野生ニホンザルに寄生しているサルジラミの細菌叢の解明を試みた。神奈川県において捕獲されたニホンザルから血液とサルジラミの成虫72匹を採取した。乳剤化した各虫体からDNAを抽出した後,PCR法で細菌の16S rRNA(V3-V4領域)を増幅し次世代シーケンサーMiSeqによって同領域の塩基配列を決定した。細菌叢解析プログラムQIIME2を用いて,シラミの細菌叢を属レベルごとに分類し,占有率を求めた。 細菌叢を解析すると,Candidatus Puchtella属が全てのサルジラミから検出され,その占有率は0.01~99.4%であった。細胞内寄生菌のうち,Bartonella属は28匹(38.9%),Coxiella属は20匹(27.8%),Rickettsia属は11匹(15.3%)のサルジラミで確認され,その占有率はそれぞれ0.03~68.5%,0.02~14.3%,0.01~1.3%であった。これらの結果から,野生のニホンザルが塹壕熱のみならず,Q熱やリケッチア症の病原巣となる可能性についても検討する必要がある。また,Puchtella属はサルジラミの内部共生細菌であると考えられていることから,サルジラミにおける本菌の生物学的役割についても検討する必要があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究協力者によって神奈川県内で捕獲されたニホンザルからサルジラミを数多く採取することができ,また次年度のサンプリングに向けた研究協力体制を構築することができた。次世代シーケンサーを活用することによって,サルジラミ虫体内におけるBartonella菌の存在比を解明できただけでなく,サルジラミがQ熱やリケッチア症の原因となる細菌も保有している可能性を示すことができた。また,サルジラミ固有の共生細菌であるPuchtella属の存在比を定量的に解析することも可能となった。人特異的に寄生するコロモジラミやアタマジラミの細菌叢と本研究で得られたMacaca属特異的なサルジラミの細菌叢を比較することにより,霊長類寄生性のシラミに関する細菌叢を網羅的に解析できると期待される。 本研究には,サルジラミといった野外試料が必要であるとともに,高度なバイオインフォマティクスの知識と専用の解析PCも必要となる。研究代表者らは試料採取に向けて外部機関と円滑な研究協力体制を築いており,また膨大なシーケンスデータを遅滞なく迅速に解析できる環境も構築済みである。“研究試料の安定的なサンプリング”および“迅速なデータ解析のルーチン化”を達成できていることから,本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究対象であるB. quintanaの遺伝子系統は,Multi-locus sequence typing(MLST)法によってこれまでにも詳細に解析されてきた。アカゲザルやカニクイザル由来株はそれぞれ7つのSTに型別され,ヒト由来株については,アカゲザルなどと同様に7つのSTに型別されていたものの,研究代表者らの研究(Sato et al., BMC Infect Dis. 2023, 23(1):142.)によって,さらに5つのSTが中東やアフリカのB. quintana感染者から検出され,計12タイプに型別されている。一方,ニホンザル由来B. quintana株は単一のST(ST22)のままであり,新規のSTが検出されていない。ヒト由来株では,解析する株数を増やすことで新たなSTが検出されたものの,ニホンザル由来株では,いずれの株においても単一のSTに収束するため,ニホンザル由来株間での遺伝的多様性を評価できない状況である。今後,ゲノム解析能力の高いゲノムタイピング手法として,全ゲノム情報に基づくcore genome MLSTなどの他,Bartonella菌の宿主特異性を決定している遺伝子領域(trwなど)に着目したゲノム解析手法も代替案として考慮しながら,“B. quintanaの新規ゲノムタイピング法”の開発にも注力していく予定である。 サルジラミの細菌叢を解明する過程において,Q熱やリケッチア症の原因となる細菌がシラミ体内から検出された。今後,宿主であるニホンザルについても,これら病原性細菌の保有状況を解明していく予定である。また,これらの成績を纏めた上で,論文化にも着手する予定である。
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