鶏貧血ウイルス(CAV)感染症は鶏に発育不良や免疫不全を起こし、養鶏産業に慢性的な悪影響をもたらす疾患である。本研究の目的は、CAVの病理組織学的な高感度検出技術を確立した後、鶏の体内におけるCAVの持続感染の有無について検証することである。昨年度までに、CAVを高感度に検出可能なin situ ハイブリダイゼーション法(ISH法)およびリアルタイムqPCR法によるCAV遺伝子定量系の確立を行い、鶏を用いた長期ウイルス感染試験を開始している。 本年度は昨年度から引き続いて6カ月間の感染試験を行い、解析用サンプルの調整および病理学的・ウイルス学的解析を実施した。病理学的解析によって、ウイルス接種から数か月経過したリンパ臓器などにおいて、ウイルスの遺伝子と抗原(タンパク質)が共発現する濾胞が存在することが明らかとなった。ウイルス学的解析では、PCR法によるウイルス遺伝子検出結果は病理学的解析結果と類似していた。また中和抗体検査によって、ウイルス接種鶏は接種後4週から6カ月にかけてCAVに対する中和抗体を高力価で保有していたことが明らかになった。一部の研究結果は関連学会で報告された(山本ら、2023)。 研究期間を通じて、本研究で我々はISH法による病理組織学的な高感度CAV検出技術を新たに確立した。また鶏を用いた長期のウイルス感染実験を実施し、CAV感染後にCAVに対する中和抗体を体内に保有する鶏の一部の臓器の細胞において、CAVの遺伝子や抗原が発現し得ることを実験的に証明した。これらの知見は、鶏の体内におけるCAVの未知なる持続感染機構の存在を示唆していると考えられた。
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