研究課題/領域番号 |
21K05955
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
越野 裕子 (後藤裕子) 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (80436518)
|
研究分担者 |
大野 耕一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (90294660)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 猫伝染性腹膜炎ウイルス / 抗体依存性感染増強 |
研究実績の概要 |
猫伝染性腹膜炎 (FIP) は、猫コロナウイルス (FCoV) の感染によって引き起こされる、猫において最も重要な致死性感染性疾患の一つである 。しかしFCoVに感染した猫の多くはFIPを発症せず、無症候あるいは軽度消化器症状を呈するキャリアーとなる。キャリアー猫から分離されたFCoVであるFECVと、致死性のFIPを発症した猫から分離されるFCoVであるFIPVの決定的な違いは未だに明らかではない。 本申請では両者の違いについて検証を行うため、まずは自然感染症例からのウイルス分離を試み、そのウイルス性状をin vitroで明らかにする とともに、宿主の臨床情報との関連を検討するものとする。 1. 抗猫コロナウイルス抗体検出のためのELISA系の確立:細胞株に順化したウイルス株である79-1146株の分与を受け、抗体検出ELISAの抗原として使用する。現在はウイルスの増殖とタンパク質精製を行っている段階である。 2. ウイルス検出系の確立:リアルタイムPCRを用いたウイルスRNA検出系および、病原性と関連すると考えられているSタンパク質遺伝子の変異をサンガーシーケンスにより検出する系を確立した。ウイルス感染細胞の免疫細胞化学による検出についても確立した。 3. 猫コロナウイルス感染症例からの検体収集:動物医療センターに来院した症例より、病変部針吸引生検サンプルや血液サンプル、および臨床情報を収集している。 4. 猫の腸組織および組織球由来細胞株に対する猫コロナウイルス感染の検討:猫腸コロナウイルスは腸組織で、猫伝染性腹膜炎ウイルスはマクロファージで増殖すると考えられている。猫でこれらの細胞に由来する細胞株はほとんどないが、最近樹立された腸由来および組織球由来の細胞株を用い、ウイルス感染を試みている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究室ではこれまで猫コロナウイルスのin vitro研究の技術がなかったため、初年度は in vitro研究に必要な技術および材料の確保を優先した。まず猫由来細胞株であるfcwf-4に馴化したウイルス株である76-1146株の分与を受け、RT-PCRおよび免疫細胞化学によるウイルス検出法、サンガーシーケンスによるSタンパク質配列解析の方法を確立し、現在はELISA法による抗体検出を試みている。これらの方法を用いてin vitro感染実験を行う準備はほぼ整ったため、次年度より臨床サンプルからのウイルス分離を試みる予定である。また、猫の腸および組織球由来細胞株についてもウイルス感染の可否を検討し、感染の可能性があるようならウイルス分離の材料とし使用する。 感染に用いる臨床サンプルについても順調に収集を続けている。感染疑い例の病変部からサンプルを採取するとともに、血漿/血清サンプルの収集をおこない、抗体価の測定を行う予定である。抗体価の高いサンプルについてはin vitro感染実験に添加する候補とし、抗体依存性感染増強を検討する。研究開始前に予想した通り、単独の診療施設では症例数が少ないため、次年度以降は東京大学以外の施設にも協力を仰ぎ、さらに多くの検体を収集することを考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度から引き続き、ELISAを用いた抗猫コロナウイルス抗体検出系を早期に完成させるとともに、猫の腸および組織球由来細胞株のウイルス感染の可否について検討する。 さらに、これらの方法を用いて2022年度は臨床検体からのウイルス分離を試みる。ウイルス分離に使用する細胞はこれまでウイルス分離に使用されてきた猫細胞株であるfcwf-4およびCRFK、猫末梢血由来単核球、さらに新規に検討中の腸および組織球由来細胞株におけるウイルス増殖が確認された場合には、これらの細胞株も臨床検体からのウイルス分離に用いるものとする。ウイルス感染の有無は、ウイルスゲノムRNAの検出および免疫細胞化学によるウイルスタンパク質の検出により判定し、細胞傷害性、ウイルス増殖速度等について検討を行うものとする。また、抗猫コロナウイルス抗体を含む症例血清を添加し、ウイルス感染効率の向上を検討する。
|