猫伝染性腹膜炎 (FIP) は、猫コロナウイルス (FCoV) の感染によって引き起こされる、猫において最も重要な致死性感染性疾患の一つである 。しかしFCoVに感染した猫の多くはFIPを発症せず、無症候あるいは軽度消化器症状を呈するキャリアーとなる。キャリアー猫から分離されたFCoVであるFECVと、致死性のFIPを発症した猫から分離されるFCoVであるFIPVの決定的な違いは未だに明らかではない。 本申請では両者の違いについて検証を行うため、まずは自然感染症例からのウイルス分離を試み、そのウイルス性状をin vitroで明らかにするとともに、宿主の臨床情報との関連を検討するものとする。 1. 猫コロナウイルス感染症例からの検体収集:東京大学附属動物医療センターに来院した症例より、病変部針吸引生検サンプルや胸腹水などを用いたウイルス RNAの検出、病原性と関連すると考えられているSタンパク質遺伝子の変異検出を行った。検査結果、病変部サンプルとともに血液サンプル、および臨床情報の収集を継続して いる。 2. 猫の腸組織および組織球由来細胞株に対する猫コロナウイルス感染実験:猫腸コロナウイルスは腸組織で、猫伝染性腹膜炎ウイルスはマクロファージで増殖すると考えられている。猫で樹立された組織球由来の細胞株2種類を用い、fcwf-4細胞株に順化した FCoVウイルス株である79-1146の感染を試みた。感染効率は異なっていたものの、猫組織球由来細胞株2種類に対してはいずれも79-1146株の感染が成立することをリアルタイムRTーPCRおよび免疫細胞化学で確認した。FCoV感染により引き起こされるこれらの細胞株の変化について、RNA-seqを用いた解析を行っている。また、抽出された発現変動遺伝子については、臨床サンプルを用いた検討を計画中である。
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