本研究ではdsRNAレオウイルスの複製機構を解明し、これを阻害する薬剤を探索して創薬開発の一助とすることを目的とし、オルビウイルス(イバラキウイルス、IBAV)をモデルとして検討したところ、抗レオウイルス剤として、マクロピノサイトーシス阻害剤、mTORC阻害剤、エンドソーム酸性化阻害剤が候補として上げられた。2023年度は、酸化的リン酸化(OXPHOS)などのミトコンドリア代謝の変化は、ウイルスの標的となることや宿主免疫応答の一部として機能すると考えられることから、2つの異なる阻害剤であるCCCPとアンチマイシンAを用いて解析した。その結果、ミトコンドリアのCCCPとアンチマイシンAはIBAVの増殖を有意に抑制した。また、これらの阻害剤はATP合成を抑制するため、細胞内のATP量を減少させ、その結果AMPKを活性化することが確認された。そこで、AMPKのIBAVへの影響を調べるため、AMPK活性化剤のAICARを用いたところ、AICARは細胞内ATP量の変化を伴わずに、IBAV増殖を顕著に抑制した。したがって、AMPK活性化がIBAVの増殖を抑制するのに十分であることが明らかとなった。一方、IBAV感染後の時系列変化を追跡したところ、IBAV増殖に伴ってATPの減少とAMPKの活性化が認められた。これらのことから、IBAV感染時に見られるAMPKの活性化が、IBAVを抑制する宿主防御機構として働いている可能性が示された。また、IBAV感染に重要とされるエンドサイトーシスの活性やエンドソームの酸性化が、AMPKの活性化によって妨げられないこと、他のウイルス種で重要性が報告されている脂質代謝やオートファジーなども、AMPK活性およびIBAV増殖と相関しないことも判明した。
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