癌研究は、培養細胞ならヒトやマウスの細胞株、実験動物ならマウスを使った研究が盛んに行われてきた。これらの研究は、癌がどのように発症するのかを解明することに多大な貢献をしてきた。近年、分子細胞学的手技の発展により、一般的なモデル生物ではない癌になりにくい動物種が発癌防御機構を解析するのに有用であることが示唆されるようになってきた。癌になりにくい動物種として、ハダカデバネズミ、メクラネズミ、ゾウ、クジラなどが報告されているが、本研究では細胞の癌化防御機構が不明なゾウに注目して研究を行い、ゾウの発癌防御機構を解明し、この知識を最終的に獣医療や医療へ応用することを目的とした。すなわち、本研究計画では①正常なゾウ繊維芽細胞を癌化させて、元の正常な線維芽細胞と比較することで、ゾウの癌化に必要な遺伝子、タンパク質を特定すること、および、②ゾウ独自に進化したと考えられる染色体安定性機構の中で、最も進化速度が速い遺伝子であるDNA損傷修復タンパク質FANCLとFANCLが関わるDNA損傷修復経路のFanconi/BRCA経路の機能解析を行う。 今年度は、ゾウポリーマウイルスのT-antigenを共同研究者から分与いただき、これを強制発現させた繊維芽細胞の不死化を試みている。現在までの所30継代程度は、継代可能であり、こんご不死化細胞の作出が期待できる。SV40のLTを導入したゾウ繊維芽細胞も途中で細胞老化してしまった。 昨年度までにmamalian two-hybrid assayによりヒトFANCL-FANCB相互作用と比較してゾウFANCL-FANCBの相互作用が強い可能性が示唆されたので、他のFANCLと相互作用するタンパク質であるFANCCとUbe2Tのクローニングも試みたが、両方ともクローニングまでには至っていない。
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