研究課題/領域番号 |
21K05962
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
壁谷 英則 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (10318389)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Campylobacter / 野生動物 / 鹿 / 猪 / 病原性 |
研究実績の概要 |
本研究には2019年10月から2021年7月、14道府県の鹿190頭、10府県の猪94頭の直腸便を供試した。各糞便1gを9mlのPreston培地に接種し、微好気条件下、37℃および42℃で48時間増菌培養後、mCCDA寒天培地およびスキロー血液寒天培地で微好気条件下、37℃および42℃で48時間分離培養した。各培地上のCampylobacter属菌を疑うコロニーを3個釣菌し、5%馬血液加ミューラーヒントン寒天培地で上記と同条件で純培養した。純培養したコロニーからDNAを抽出し、Campylobacter属23SrRNA、C. jejuni hipO、C. coli glyA、各遺伝子を標的としたMultiplexPCR法、C. hyointestinalis(Ch)の23SrRNAを標的としたPCR法で菌種を同定した。さらにPCR法によりChの細胞膨化致死毒(CDT)遺伝子chcdtⅠ、chcdtⅡの保有状況を検討した。chcdtⅡのみを保有する猪由来Ch株(18B171株,18B213株)については、Miseqを用いた全ゲノム解析を行い、DFASTによりアノテーションを行った。病原関連遺伝子の検索はVFDB解析によって行った。 鹿の6頭(3.2%)、猪の5頭(5.3%)からそれぞれ18株、20株のCampylobacter属菌が分離された。分離株は全てChであった。鹿由来の全18株、猪由来の14株(70%)はchcdtⅠ/Ⅱの両方を保有し、猪由来の6株(30%)はchcdtⅡのみを保有していた。18B171株,18B213株の全ゲノム解析の結果、両株から同様に、10種の運動性関連遺伝子、7種の化学走性関連遺伝子、2種の接着関連遺伝子、7種の侵入関連遺伝子、3種の薬剤耐性関連遺伝子、6種のストレス応答関連遺伝子、4種のその他病原関連遺伝子とそれぞれ相同な遺伝子が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、あらたに全国の研究協力者から収集した鹿や猪の糞便を使ってCampylobacterの分離培養を行うと同時に、これまでに分離したC. hyointestinalis(Ch)分離株について毒素遺伝子(細胞膨化致死毒(CDT)遺伝子chcdtⅠ、chcdtⅡの)の解析、並びに全ゲノム解析による網羅的な病原関連遺伝子の検索を行った。検体の収集は当初の見込み通り収集が可能であった(本年度・鹿201検体、猪80件体、上記成績に含まず解析中のものを含む)。一方、分離株の病原性評価については、従来から分離してきたCh2株の全ゲノム解析を実施することができた。また、一連の網羅的病原関連遺伝子解析の実施に加え、薬剤耐性遺伝子の網羅的解析も実施することができた。さらには、これらの成績を投稿論文として取りまとめ、本年度内に受理された。 以上から、本研究課題の研究目的に対して、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、引き続き、検体収集、Campylobacterの分離培養、生化学性状解析を継続して実施する。これに加え、Campylobacterの類縁菌であるArcobacterについても同様に分離培養を試みる。研究協力団体の協力を得て、広く地域的にこれまでに検討できなかった地域における検体を収集することに注力する。特に、全ゲノム解析による網羅的な病原関連遺伝子の探索を実施する株を増やすことを計画している。 これらに加え、全ゲノム解析による網羅的な病原関連遺伝子の保有パターンを解析した株を用いて、ヒト腸管上皮細胞に対する病原性評価を実施することを計画している。具体的には、ヒト腸管上皮細胞株への接着侵入試験、タイトジャンクション障害能の評価を行う。前者については、GFP発現Ch株を作製し、接着、侵入に関わることが予想される病原遺伝子の保有パターンが異なる株を用いて、ヒト腸管上皮細胞株への接着率、侵入率をそれぞれ検討する。後者については、細胞障害能、ならびにタイトジャンクション構成タンパク質に対する障害能を細胞障害試験、ならびにウェスタンブロット法などにより評価する。本研究により、わが国の野生鹿や野生猪が保菌するChの人へのリスクを評価する。
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