研究課題/領域番号 |
21K05964
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
村田 拓也 岡山理科大学, 獣医学部, 准教授 (70281186)
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研究分担者 |
汾陽 光盛 岡山理科大学, 獣医学部, 教授 (00153007)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アネキシンA1 / アネキシンA5 / 下垂体 / ゴナドトロフ / 性腺刺激ホルモン |
研究実績の概要 |
雌性動物の繁殖機能は、視床下部―下垂体―卵巣を軸として制御されている。アネキシンA5(ANXA5)は、下垂体に発現し、下垂体からの黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促進する。ANXA1は、下垂体に発現し、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)により発現が増加する。本研究の目的は、ANXA1のANXA5およびビタミンDレセプター(VDR)との関連に注目し、下垂体からのLHおよびFSHの分泌において、ANXA1がどのような役割を果たしているのかを解明することである。マウス下垂体ゴナドトロフ由来のLβT2細胞において、protein kinase C (PKC)アゴニスト(TPA)により、Anxa1とAnxa5の発現が刺激された。また、アンタゴニストを用いた実験により、GnRHアゴニスト(GnRHa)は、MEK-PKCの活性化により、Anxa1とAnxa5の発現を刺激していることが明らかになった。さらに、10 nM と1μM のTPA処置によって、Anxa5の発現には違いはなかったが、Anxa1の発現では、1μMの TPA処置では10 nMのTPA処置より大きく増加した。このことは、Anxa1とAnxa5は、ともにMEK-PKC活性化を伴いGnRHaによって発現が増加するが、異なったメカニズムが介在している可能性を示唆している。また、FSH発現を特異的に促進する因子であるアクチビンが、Anxa5の発現を抑制し、GnRHaによるAnxa1発現の増加をさらに増強することが明らかになった。さらに、雌ラットの下垂体前葉を各性周期の午前中に採取し、Anxa1、Anxa5、およびVdrの発現を調べた。その結果、Anxa1、Anxa5、およびVdrの発現が、発情前期において、有意に減少し、性周期を通して、この3者間で、正の相関が見られることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、3因子(Anxa1、Anxa5、Vdr)の下垂体での発現の変化、パルス状GnRHの関与、ノックアウト(KO)マウスおよび下垂体初代培養系による3因子の相互作用の検証を行う。2021年度は、以下の2実験を行った。 【実験1】性周期(4日)中のラット下垂体のAnxa1、Anxa5、Vdr、GnRH受容体、および各下垂体ホルモンのmRNA量をreal time PCRで調べた。各性周期の雌ラット下垂体前葉のAnxa1、Anxa5、とVdrの発現が、発情前期で有意に減少すること、および3因子間で正の相関がみられることを示した(投稿中)。この実験は、GnRHサージの影響を除くために各ステージの午前中に採取を行ったが、さらにGnRHサージが起こる発情前期で2時間毎の採取を行い、現在各遺伝子の発現について解析中である。 【実験2】LβT2細胞におけるAnxa1発現調節の解析を行った。LβT2細胞のAnxa1とAnxa5の発現は、ともにMEK-PKCの活性化を伴いGnRHaによって発現が増加することを示し、さらに異なったメカニズムが介在している可能性を示唆する結果を得た(Murata T. et al., Endocrine J. 69: 283, 2022)。さらに、FSH発現を刺激する因子であるアクチビンが、LβT2細胞においてAnxa5の発現を抑制すること、そしてGnRHaにより起こるAnxa1発現の増加をさらに増強することを明らかにした(Murata T. et al., Endocrine J. in press)。これは、調節系および作用において類似性が高いと考えられてきたAnxa1とAnxa5において、異なる調節系の存在を示唆している。このように、Anxa1とAnxa5の作用についてさらなる検討が必要と考えられ、今後の方向性に影響する貴重な知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、3因子(Anxa1、Anxa5、Vdr)の下垂体での発現の変化、パルス状GnRHの関与、ノックアウト(KO)マウスおよび下垂体初代培養系による3因子の相互作用の検証を行う。 【実験1】ラット下垂体での3因子の遺伝子発現パターンの解析(村田)およびラット下垂体の免疫組織化学的解析(村田、汾陽)を行う。卵巣摘出後の下垂体のAnxa1とAnxa5の変動を調べ、GnRHの影響について検証する。免疫組織化学法による解析を行い、Anxa1、Anxa5、Vdrを発現している下垂体の細胞の同定および性周期中の発現の変化を調べる。 【実験2】マウス下垂体ゴナドトロフ由来のLβT2細胞におけるANXA1作用の解析、マウス下垂体由来の濾胞星状細胞様のTtT/GF細胞におけるAnxa1の発現調節の解析、および下垂体初代培養系でのANXA1およびGnRH作用の検証(村田)を行う。ANXA1は、ANXA5の作用を増強するのか、Anxa5の発現に対してどのように働くのかをLβT2細胞を用いて調べる。Anxa1は下垂体の濾胞星状細胞に多く発現している。またアクチビンの結合タンパクであるフォリスタチンも濾胞星状細胞に発現し、アクチビンのFSHに対する作用を調節していると考えられている。LβT2細胞に加えて、TtT/GF細胞を用いて、Anxa1の発現調節を調べ、LβT2細胞の結果と比較する。下垂体初代培養細胞を行い、各実験から得られた結果を基にGnRH作用がどのように変化するかを調べ、さらにKOマウスの下垂体初代培養細胞を用いた実験も検討する。 【実験3】KOマウスの作製(村田、汾陽)を行う。Anxa1、Anxa5とVdrの3因子のKOマウスを作製し、それぞれの因子が発現していない場合、3因子の残りの因子に起こる変化、およびGnRH受容体、Lhb、Fshb発現への影響を調べる。
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