本研究は小型ピロプラズマ症の病原原虫であるタイレリア原虫が、野外マダニの中でどのような他原虫と共感染して相互作用しているのか、また感染の成立のキーとなっているマダニ分子機構は何であるのかを明らかにすることを目的に実施した。まず、本邦で捕獲したマダニの中のピロプラズマ原虫叢を解析した。増幅には18SrRNA配列の保存領域を標的に次世代シーケンサーで解析を行った。結果人獣共通感染症のBabesia microtiやタイレリア原虫の感染が確認された。加えて、アピコンプレックスの近縁原虫類の配列が多数検出され、うち北海道日高地方で採集されたマダニから、中国で発熱ヒト患者から検出されたColpodella配列と100%一致する塩基配列が検出された。このことから、マダニの中の未知の人獣共通感染性のピロプラズムを検出する上でも本ピロプラズマ検出法が有用であることが示された。また、牛血液置換マウスに小型ピロプラズマ原虫を感染させ、このネズミにフタトゲチマダニを吸血させることで、マダニへのタイレリア感染実験を行った。感染・非感染マダニの中腸と唾液腺を解剖しトランスクリプトーム解析を実施した。結果、タイレリア感染時唾液腺における数遺伝子の有意な発現上昇を確認した。中腸における有意な発現変動遺伝子は検出されなかった。本研究ではマウスを用いた吸血や飼育過程で多くの個体が死亡するなど実験マダニ個体が十分に用意できなかったことが課題として残された。今後、マウスを用いたマダニ吸血実験系の技術改良や試験管内吸血法の開発などが必要であると考えられる。
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