研究課題/領域番号 |
21K05971
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
山中 仁木 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 准教授 (30533921)
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研究分担者 |
池 郁生 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 特別嘱託研究員 (40183157)
増山 律子 立命館大学, 食マネジメント学部, 教授 (60297596)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヘリコバクター属菌 / 大腸粘膜 / 肝臓炎症 / サイトカイン / 腸内細菌叢 / ハイブリドーマ / 抗体 |
研究実績の概要 |
H. mastomyrinus(Hm)分離菌の病原性を明らかにするため、昨年度では重度免疫不全(SCID)マウスを用いて実施したのに続いて、今年度は免疫正常のBALB/cマウスを用いて行った。経口感染後24週以上経過したBALB/cマウスにおいて、体重減少や脱肛など外見上明らかな病態を呈することはなかった。しかしながら、感染マウスの60%以上で肝臓において菌遺伝子が検出され、検出された肝臓では小葉間の血管周囲に多数の細胞浸潤が観察された。血液中の生化学的検査においても、ALTやAST値が高く肝臓障害を疑う結果が得られた。一方、主な生息部位と考えられる盲腸以下の下部消化管においては、短縮化や粘膜肥厚など明らかな病態は観察されず、現在詳細な組織学的解析を行っている。しかし、各消化管粘膜リンパ球のサイトカイン発現では、炎症性、Th1、Th2、Treg系の各種サイトカインが有意に上昇していたことから、Hmは結腸粘膜に侵入し免疫反応を回避しながら深層へ侵入、血中へ逸脱し肝臓に到達したと考えられた。しかし、消化管の分泌された菌特異的IgAは非感染群と比較して有意に高く、粘膜防御機構をどのようにして回避して粘膜深層へと侵入するのか、宿主の粘膜における粘液や抗菌ペプチド発現について次年度に解析を進める予定である。Hm感染マウスの腸内細菌叢は、非感染群と比較してαあるいはβ多様性解析では有意差は認められず、サイトカイン発現亢進などの炎症誘導は腸内細菌叢の変調によるものではなくHm自体によるものであることが考えられた。 現在、Hm分離菌のゲノム解析について研究分担者が進めており、次年度にその結果が明らかになる予定である。更に、Hm感染マウスから得た腸間膜リンパ節およびパイエル板のリンパ球を用いたハイブリドーマ作製を進めており、それらが産生する抗体の認識抗原について解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Hm分離菌のゲノム解析について、菌ゲノム調整のための菌の最適培養条件の設定等において予定より時間を要し、当初計画よりも遅れている。今年度では、その条件を決めることができ解析を進めており、次年度には解析は完了する予定である。 Hm感染マウスから採取したリンパ球を用いたハイブリドーマ作製については今年度中に完了する予定であったが、次年度にずれ込み現在作製途中である。次年度には、得られたハイブリドーマから産生される抗体の認識抗原を解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までにやり残しているHm感染BALB/cの消化管粘膜の粘液および抗菌ペプチド発現解析について、研究分担者と協力しながら進めていく。 Hm分離菌のゲノム解析結果を用いて、感染マウスの肝臓で検出されることのない低病原性のH. japonicus(Hj)分離菌とのゲノム比較をすることで、消化管粘膜深層へ侵入する因子の絞り込み等その機構について明らかにしていきたい。 HjおよびHm感染マウス腸間膜リンパ節あるいはパイエル板のリンパ球を用いて作成したハイブリドーマから産生される抗体について、HjとHm感染マウスで誘導されるIgA機能(認識抗原)の違いについて解析を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在進めているハイブリドーマ作製が当初計画より遅れているため次年度への繰越金が生じた。そのため、当初予定しているハイブリドーマ産生抗体の機能解析のための試薬や実験器具の購入費に充てる。同様に、当初計画から遅れているゲノム解析結果から得られる情報を基に病原性や宿主免疫回避に関連する因子について、解析するための試薬や器具類の購入費に充てる。
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