研究課題/領域番号 |
21K05972
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
与語 圭一郎 静岡大学, 農学部, 准教授 (60362844)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 精子 / 鞭毛 / がん |
研究実績の概要 |
DLEC1はヒトの肺がんや食道がんで発現が低下している遺伝子として発見された。がん細胞にDLEC 1を発現させると細胞増殖が抑制されることからがん抑制遺伝子として機能していると推測されている。一方、我々はDLEC1を欠損したオスマウスは、精子が正常に作られず不妊となることを見出した。以上のような背景から我々はDLEC1が繊毛形成を促進することで細胞増殖を抑制しているのではないか、もしそうならDLEC 1の分子機能を明らかにすることで、繊毛形成が細胞増殖を抑制する機構の一端を解明できるのではないかと考え、本研究を開始した。 DLEC1ががん細胞の細胞増殖を本当に抑制できるのか解析した。ヒト肺がん細胞であるA549を用いてDLEC1安定発現株を得た。最初に得た株では、既報と一致して細胞増殖を抑制する効果が見られたが別の株で試したところ再現性に乏しかった。クローナルディファレンスを考慮し、いくつかのクローンを得てから安定発現株を得た。それらの細胞増殖能をコントロール株と比較したが、有意に変化しなかった。これらの結果はDLEC1が増殖抑制因子として機能しているという過去の知見に矛盾するものである。今後、DLEC1-KOマウスを用い、正常マウスよりがん化しやすいかどうかを明らかにすることで、がん抑制遺伝子としての機能の有無に決着をつけたい。 上述のようにDLEC1は精子形成に必須の働きを持つが、その分子基盤は不明な点が多い。DLEC1はASHドメインを有する約200kDのタンパク質で、ASHドメインはタンパク質相互作用に関わることが知られている。そこで何らかの分子との相互作用を介して精子の鞭毛形成に関わっているものと考えた。現在、1つのある分子について研究を行っており、その分子とDLEC1が293細胞での共発現系および精巣における内在性の分子同士で結合することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
A549細胞におけるDLEC1による細胞増殖抑制効果が見られず、既報とは異なった結果となったことから、安定発現細胞株の取得、クローン化などを繰り返し行い、細胞増殖に及ぼす影響を調べたため。一方、DLEC1の内在性の結合分子の発見はDLEC1の分子機能を探る上では重要な発見であった。この分子についてはDLEC1との機能的な相関関係が推測されており、今後の研究に進展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
A549以外の細胞でDLEC1の細胞増殖抑制効果を調べるほか、マウス個体レベルでの解析を用いてDLEC1が本当にがん抑制遺伝子としての機能を有するのか調べる。その結果、もしDLEC1のがん抑制遺伝子としての機能が確認できなかった場合は、DLEC1が精子の鞭毛形成にどのように関わるのか、分子機能の解明を主体とした研究へとシフトしていく。特に、同定した相互作用分子との結合が、鞭毛形成にどのような意義を持つのかに着目していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
DLEC1の細胞増殖抑制と繊毛形成促進効果の負の相関関係を調べるのが当初の計画であったが、DLEC1の細胞増殖抑制効果が見られないという、既報とは異なる結果が得られたのでその確認に注力し、他の実験の進展にやや遅れが生じたことが第一の理由である。とはいえ次年度に繰り越した額は、使用計画の1割程度とそれほど大きくはない。次年度以降はマウスの飼育数も増加することが予想されるので(欠損がマウス個体のガン化に及ぼす影響を調べるため)、その飼育費用として使用する予定である。
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