これまで我々はマウスにおいて卵管ロートの運動線毛の形態機能異常が卵管のピックアップ機能・卵子輸送機能に影響を与えることを報告した。加えて、卵管上皮の形態異常にはFoxj1およびPax8などの卵管上皮の恒常性維持に関与する分子のほか、ヘッジホッグシグナル伝達経路関連分子の発現変化が関与することを報告した。 本年度は、生殖障害を呈する臨床症例の卵管形態を調査するため、産卵障害(卵墜症および卵塞症)を呈する採卵鶏の卵管上皮の組織形態を解析し、マウスにおいてみられた卵管機能異常に関与する病態が採卵鶏においても存在するか調査した。 500日齢以上の高齢採卵鶏を使用し、腹腔内に卵が存在した個体を卵墜症群、卵管内に2個以上の卵が存在した個体を卵塞症群、以上2つの所見がみられた個体を併発群、これら以外の個体を健常群と定義し、卵管の組織形態および上皮関連分子の発現を比較した。結果、健常群と比較し、卵墜症群、卵塞症群および併発群では、卵管全長において上皮を覆う線毛の割合が低く、加えて粘膜固有層における顕著なT細胞浸潤がみられた。加えて、線毛上皮細胞の分化に必須であるFoxj1の発現は、健常群と比較して卵墜群、卵塞群および併発群で発現量が低い傾向にあった。 以上より、採卵鶏の卵墜症および卵塞症の発症には卵管上皮における線毛上皮細胞の顕著な減少が関与することが示唆された。さらに、卵管における炎症およびFoxj1の発現低下が卵管線毛上皮の形態に影響を及ぼす可能性も示唆された。これはマウスにおける卵管機能異常に関与する卵管上皮の形態・分子発現異常と同一であり、臨床症例においても卵管の炎症および線毛上皮の形態異常が生殖機能において重要な病態であることが示された。
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