研究課題/領域番号 |
21K05980
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
向 正則 甲南大学, 理工学部, 教授 (90281592)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 卵形成 / ストレス応答 |
研究実績の概要 |
本研究ではショウジョウバエを材料として、環境ストレスに対する応答を中心に、生殖細胞の品質管理や制御に関わる分子機構の解析を進めている。先行研究から、基本転写因子ホモログTrf2が生殖細胞の維持に関わることが判明している。初期胚から飼育温度を30℃として、連続的にTrf2 RNAi を作用させて、生殖細胞中のTrf2をノックダウンすると、成虫卵巣中の生殖細胞が失われる。このため、成虫卵巣の卵母細胞中でのTrf2の機能解析が困難であった。そこで(1)成虫卵巣中でのTrf2の機能を解析するために、ノックダウン実験の条件検討を行った、その結果、成虫雌に対して29℃の温度処理を行うことで、卵巣中における中期卵室(ステージ10)の分化が抑制されることが明らかになった。Trf2が中期卵室の分化の制御に関与することが判明した。(2)今年度は、環境ストレスとして熱ストレスに注目し、熱ストレスと卵形成過程の関係を調べた。その結果、39℃以上の熱処理で、成虫雌の生存率が著しく低下するが、38℃の処理により、生存率を顕著に低下させずに卵形成過程を阻害できることが判明した。また、熱処理後に25℃の飼育温度に戻すことにより、数日後に卵形成過程が回復することが明らかになった。熱ストレスによる卵形成の阻害、障害とその後の回復を、卵室の組織レベルで簡便に解析する方法、及び妊性の回復を評価できる実験系が完成した。さらに、(3)生殖細胞中でRNAiを一過的に発現して遺伝子機能抑制し、卵巣中での熱ストレスに対する応答(ストレス感受性、障害、及び回復)に関わる遺伝子の機能解析を行う実験系の構築を試みた。熱ストレスを与え、Trf2をノックダウンし、回復に対する影響を調べた結果、妊性の回復が遅れる傾向が観察された。(4)Trf2が熱ストレス後の卵巣の回復に関わる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞に対するストレスの研究に紫外線(UV)などの線源が使用される。これらの研究は培養細胞を用いて行われるため、UVが細胞に直接与える影響を解析できると考えられる。実際に、ショウジョウバエの個体に対してUVストレス条件を与え、卵巣に対する影響を調べた結果、上述の熱ストレスと同様の卵巣分化に対する阻害が観察された。しかし、UVの組織に対する透過性を考慮するとUVが感覚器や神経系に与える影響などの間接的な作用による卵巣の障害が考えられ、ストレスに対する反応機構を解析する上で、将来的な困難が予想できた。そこで、今年度は、体内に伝わり、組織にストレス反応を直接引き起こす熱ストレスに注目し、熱ストレスが卵形成過程に与える影響を解析し、実験条件、解析系の構築を行なった。上述のように、熱ストレスによる卵形成の阻害、障害とその後の回復を、卵室の組織レベルで簡便に解析する方法、及び妊性の回復を評価できる実験系が完成した。熱ストレスに対する卵巣の組織レベルでの反応の解析には、ノマルスキー微分干渉顕微鏡を用いて観察することにより、組織化学染色を行わずに、障害を受けた細胞、組織の状態を迅速に判定できることが判明した。実際に、RNAi法を用いて、Trf2のノックダウンが熱ストレス応答に与える影響を評価することができることが明らかになった。熱ストレスによる卵形成の阻害、障害とその後の回復を、卵室の組織レベルで簡便に解析する方法、及び妊性の回復を評価できる実験系が完成している。さらに、ストレス応答に関わる遺伝子の機能解析系ができ上がっており、研究の進捗状況としては、概ね順調と評価できる。今年度は、卵巣の熱ストレス反応に焦点を当てて、解析を進める。
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今後の研究の推進方策 |
上述の解析系を用いて、熱ストレス応答に関わる遺伝子の機能解析を進める。熱ストレスによる卵巣の障害の程度を解析し、熱ストレスに対する感受性、熱ストレス誘導性の細胞反応の促進、抑制に関わる遺伝子の解析を試みる。Trf2のノックダウンにより、熱ストレスによる細胞障害が強くなる傾向が観察される。Trf2のノックダウンの影響を細胞レベルで解析し、Trf2が関与する細胞応答の実態を明らかにする。熱ストレス誘導性の中期卵室の障害は、飢餓誘導性のものと類似する。飢餓誘導性の中期卵室の崩壊には、オートファジー、アポトーシス反応が関与する。そこで、熱ストレス誘導性の中期卵室の崩壊にオートファジー、アポトーシス反応が関与するかを中心に解析を進める。オートファジー反応を検出するためのマーカー系統(GFP-LC3系統)を使うことで、飢餓により卵巣中でオートファジー反応に関わるオートファゴソーム小胞を検出できる。GFP-LC3系統を用いて、熱処理によりオートファゴソーム小胞の形成が促進されるか解析する。オートファジーの制御に関わるAtg遺伝子群が同定されている。上述のRNAiによるノックダウン実験により、Atg8A, Atg5などのオートファジー促進に関わる遺伝子を中心に機能解析を行い、熱ストレス誘導性の反応にオートファジーが関与するか、ストレスによる障害、その後の回復に対する影響を解析する。TUNEL法による組織化学染色を行い、熱ストレスにより卵巣中でアポトーシスが誘導されるか解析する。卵巣中のアポトーシスの誘導に関与するDcp-1遺伝子を中心にアポトーシス関連遺伝子が熱ストレス誘導性の反応に関与するか細胞、組織レベルの解析を行う。これらの解析から卵巣における熱ストレス応答の細胞レベルでの実態、さらにその制御に関わる遺伝子の解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、研究成果(3名)を日本動物学会で発表した。コロナ禍により、オンラインの発表であったため、研究発表のために計上した予算(旅費、宿泊費)が不要になった。このことが、差額が生じた主な理由である。来年度は5名の対面の学会発表を予定しており、この旅費、宿泊費に余剰分の予算を使用する予定である。上述のノマルスキー微分干渉顕微鏡が故障したため、修理を行った。このため、研究の進捗が遅れた。来年度には、熱によって誘導される中期卵室の崩壊に、オートファジー、アポトーシス反応が関わるか、遺伝子レベルでの解析を進める。解析に必要な試薬や消耗品の費用として、余剰分の予算を使用する予定である。
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