研究課題/領域番号 |
21K05981
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
黒須 剛 国立感染症研究所, ウイルス第一部, 主任研究官 (70432432)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 全身性感染症 / サイトカインストーム / 出血熱 / 感染動物モデル / 多臓器不全 / IL-6 / 免疫異常 |
研究実績の概要 |
本研究ではデング出血熱マウスモデルを用いて、サイトカインストームによる重症化機序解明を目的にしている。サイトカイン高産生には免疫細胞が異常活性化することが原因と考えられているが、なぜ免疫細胞の異常活性化が起こるか同様などの重症感染症においても明らかではない。COVID-19による重症化にはIL-6が重要だと考えられているが、デング重症化でも同様である。そもそも「なぜIL-6が過剰産生されるのか?」疑問である。我々はこれまである特定のT細胞集団から産生される物質が重要であることを明らかにした。このモデルではTNF-αやIL-17Aシグナルの阻害により症状が軽減され、致死率が劇的に改善されるが、本研究によりTNF-αやIL-17Aシグナル阻害効果は、転写レベルでの制御のためであることが明らかになった。 これまで全身のI型II型インターフェロンレセプターがノックアウト(IFN-RKO)されたマウスを用いていた。これはデングウイルスがマウスでほとんど増殖しないことによった。I型だけのIFN-EKOマウスでもデングウイルスは致死性を示さない。これまでの観察をさらに検証するためには、なるべく野生型マウスに近いものが必要になる。そこで発展した新規マウスモデルを開発するために、デングウイルス臨床株をI型IFN-RKOマウスへ順化させたところ、これらマウスでも増殖し、致死性があることを確認した。さらに観察を検証するために、免疫的により強いミエロイド系の細胞だけのI型インターフェロンレセプターがノックアウトされているマウスを導入し、致死性を観察した。これは全く新規の系であり、より野生型に近いモデルの作成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最大800文字(1600バイト)、改行は5回まで入力可。 血漿漏出が最もひどい臓器は肝臓と腸管であるが、IL-6高産生は、マウスモデルでは腸管で最も顕著に観察できる。TNF-αシグナル阻害はIL-6産生を劇的に抑制し、マウスを生存させる。病態末期とその一日前の肝臓、小腸から得たRNAを用いて行ったマイクロアレイ解析の結果を主成分解析すると、TNF-αシグナル阻害効果が最も高いのは、病態末期における小腸であることがわかった。つまり小腸の病態悪化が生死に強く影響していた。 そこで小腸に浸潤している細胞をフローサイトメトリー解析および病理解析した結果、IL-17A産生T細胞以外にも多数の好中球浸潤を確認した。さらにTNF-αシグナル阻害は、細胞浸潤を部分的にしか抑制しないことが判明した。そこでIL-6の転写に重要なNF-kBの活性化について観察したところ、感染によって小腸間質細胞、上皮細胞でNF-kBの活性化転写因子p65が核移行していることが明らかになった。またTNF-αシグナル阻害は、このp65の核移行を抑制していることがわかった。つまり、TNF-αシグナル阻害は免疫細胞の腸管へのリクルートはあまり抑制していないが、NF-kBを介した転写活性化を阻害することでIL-6産生阻害し、マウスを防御していると考えられた。 免疫的により強いミエロイド系の細胞だけのI型IFN-RKO(lysmcre+ifnar1-floxed)マウスでは、オリジナルのデングウイルス臨床分離株は致死性を示さないが、各種臓器に順化したいくつかのウイルス株では致死性を示した。肉眼的病態はこれまでのモデルと全く同じであり、病態末期に肝臓が白く退色し、腸管が腫れあがった。このことから重症化には単球/マクロファージ、樹状細胞などのミエロイド系細胞への感染が鍵になることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)NF-kB活性化機序とTNF-α阻害による抑制効果の詳細を、培養細胞なども用いて明らかにする。IL-6のプロモーターに対して、TNF-αとIL-17Aがどのように働くか、IL-6 mRNA、NF-kBのリン酸化など詳細を解析する。またNF-kB活性化によりIL-6が産生されると考えられるが、IL-6の下流に動くシグナルを確認するため、リン酸化STAT-3を検出することで、IL-6阻害効果について評価する。 (2)lysmcre+ifnar1-floxedマウスに致死的感染を引き起こせるようになった順化ウイルスの遺伝子配列を明らかにする。 (3)lysmcre+ifnar1-floxedを用いて旧モデルで解析したような宿主因子発現を調べる。TNF, IL-17A, IL-1beta, IL-6, MMPsをより重点的に調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大対応のためテレワークが推進され、実験が滞ったため。また論文発表用の経費が必要なため。
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