研究課題
本研究ではデング出血熱マウスモデルを用いて、サイトカインストームによる重症化機序解明を目的にしている。重症デング出血熱では感染によりなぜ免疫細胞の異常活性化が起こるか明らかではない。また他の重症感染症においても病原機序が明らかにされていない。我々はこれまである特定のT細胞集団から産生されるIL-17Aが重要であることを明らかにした。このモデルではTNF-αやIL-17Aシグナルに対する中和抗体による阻害により症状が軽減され、致死率が劇的に改善される。阻害効果は、転写レベルでの制御のためであることを明らかにした。この結果を国際誌に報告した。これまで全身のI型II型インターフェロンレセプターがノックアウト(IFN-RKO)されたマウスを用いていたが、ウイルスを馴化させたことにより免疫的により強いミエロイド系(骨髄系)の細胞だけのI型インターフェロンレセプターだけがノックアウトされているマウス(LysM Cre+Ifnarflox/floxマウス)への感染により血漿漏出を起こす新規モデルの開発に成功した。1型と3型のマウス馴化デングウイルスの遺伝子配列をサンガー法と次世代シークエンサーにて解析した。強毒化したウイルスには遺伝子レベル、タンパク質レベルでの置換が見つかった。血清で馴化したウイルスは致死性を示さなかった。馴化する臓器により病原性に違いを与えるような因子があるのかもしれない。
2: おおむね順調に進展している
免疫的により強いLysM Cre+Ifnarflox/floxマウスに致死性を示す馴化した2つのウイルスDV1-5P7Sp及びDV3P4Bmはそれぞれ1型、3型デングウイルスをマウス脾臓または骨髄に馴化することで作成した。馴化ウイルスの遺伝子配列を次世代シークエンサー(NGS)により解析したところ、多くの置換はquasispeciesとして存在することが分かった。もともとquasispeciesを持つウイルス集団として維持されていたウイルスが、継代により選択された可能性が示唆された。これはサンガー法で遺伝子配列決定したとは異なる結果となり、NGSの活用が必要であることが明らかになった。組織切片の蛍光抗体法によりマウスでは、マクロファージ系細胞が主な感染標的細胞であることがわかった。また実際、馴化により骨髄での増殖能が上昇していることも確認している。そこで骨髄系細胞感染への重要性を確認するため、LysM Cre+Ifnarflox/floxマウスから得た感染性のある骨髄細胞を野生型マウスへ移植し、そのマウスにウイルスを感染させた。致死感染であることを期待したが体重減少も病態変化も認められなかった。トランスファーした細胞の定着率が不明であるため、この観察からだけでは結論付けられない。他の方法での確認が必要である。
これまでの細胞集団を扱うバルク解析から多くの知見を得られた。しかし、実際にどのシグナルがどの細胞に効果があるかを明らかにするためには、シングルセルレベルでの解析も必要である。マウスモデルで最も病状(血漿漏出)が激しい腸管由来の細胞についてシングルセルレベルでのサイトカイン、ケモカイン、その他血漿漏出関連宿主因子とそれらの受容体発現、細胞の分化段階を観察することで、シングルセルレベルでの臓器全体での感染にたいする反応について解析することで、以下に血漿漏出が起ったかを明らかにする。
今年度は投稿論文作成のために時間を多くさいたため実験自体のペースが下がり、予想より予算を少なく使用した。次年度は発展した研究を行うための試薬、マウス飼育費、また複数の論文投稿・掲載料などがかかると見込まれる。
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