研究課題/領域番号 |
21K05985
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
三好 千香 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 助教 (60613437)
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研究分担者 |
船戸 弘正 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 客員教授 (90363118)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 過眠 / 肥満 |
研究実績の概要 |
本研究では、Sleepy変異マウスの覚醒時間の短縮(過眠)、顕著な体重増加(肥満)の背景にある分子基盤を明らかにすることを目的とする。特に、代謝もしくは体重制御におけるSleepy変異SIK3の機能に着目し、時空間的な遺伝子の発現パターンを明らかにすることで、体重制御と睡眠覚醒制御の新たな分子ネットワークの解明を試みる。 これまで機能損失型SIK3マウスが高い致死性を示し、致死を逃れた個体も代謝の異常や成長障害を示すことが報告されている。またショウジョウバエや線虫においては、睡眠様行動の減少がみられる。一方、Sleepy変異SIK3マウス(SIK3sleepy)は、Sik3遺伝子のスプライス部位の点突然変異によって、エクソン(Exon13)のスキップが起こり、リン酸化部位が欠損する。ホモ個体においても致死の表現型は見られず、睡眠の異常とともに若齢期から顕著な肥満が観察される。睡眠の異常と体重増加については、表現型の出現や測定のポイントが異なるため、制御している細胞や機能する時期など、相互の関係については明らかでない。脳のみならず全身にユビキタスに発現がみられるSIK3のうち、睡眠と代謝の制御に機能するのは、特定の部位の細胞なのか、さらに過眠と肥満という二つの表現型は、関連のある分子機構のなかで、同じ時間軸上で機能しているのか、詳細は不明である。本研究では、過眠と肥満の表現型の出現と制御機構を明らかにするため、細胞種特異的にSIK3sleepyを発現させることによって、相互に制御する分子ネットワークの時空間的な解析を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで細胞種特異的にSleepy遺伝子変異(Exon13スキップ)を惹起できるような遺伝子改変マウスの系を確立している。同時に機能欠損型(KO型)モデルとしてSleepy遺伝子変異(Exon3スキップ)のFloxマウスも作製し導入を完了した。 Sik3の発現は、特異性が低く、多くの臓器に発現が見られる。脳の各種神経細胞特異的なcreレポーターマウスを用いた解析が現在進行中であるが、本研究では、さらに末梢組織の細胞で発現しているSIK3の機能の解析を目的として、各種creマウスの導入を行っている。肝細胞特異的なAlubumin-cre、膵β細胞特異的Insulin-creを導入済みで、目的の遺伝子型マウスを得ている。さらに骨格筋特異的αActin-creマウス、脂肪細胞特異的Adiponectin-creについてもマウスを作製し、解析を行う。 本年度は、肝臓および膵臓の各種細胞種特異的にsleepy変異Sik3を発現させた個体について、homoおよびheteroの個体が得られ、睡眠覚醒の成熟期である10から15週齢の間で脳波の測定および睡眠解析を行った。そのほかのcreドライバーマウスとの掛け合わせも進行中で、目的の遺伝子型マウスの睡眠行動の解析も進んでいることから、計画はおおむね順調に推移していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
妊性が極めて低い家系であり、自然交配で実験に必要な個体数を確保することは困難であるため、個体の体外受精による生産を計画的に実施する。 末梢組織におけるSIK3の機能を評価するため、睡眠の測定を行う。さらに睡眠の恒常性のかく乱を目的とした睡眠遮断や代謝制御と睡眠覚醒制御のかかわりを探るトリガーとして、睡眠測定下で絶食させて、その影響についても検討を行う。睡眠にかかわる指標に差が見られた遺伝子型マウスについて、発現細胞でのSIK3もしくはSIK3sleepyの発現時期、量およびその日内変動についてqPCRやウエスタンブロッティングによって詳細に検討する。 さらに、Sleepy変異マウスの摂食行動、エネルギー代謝異常に関与する分子ネットワークを同定することを目的として、糖代謝などの検討を行い、既報のSIK3機能損失型変異に見られる代謝異常や全身性のsleepy変異SIK3マウスが示す代謝の表現型についても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid対策で胚操作が予定の実施回数から大幅減少となったため、実験規模の拡張が遅れているため。また、学会が地震でオンサイトからオンラインに変更になったため。
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