研究課題
心腎連関は加齢で増加するなど公衆衛生上の問題が大きいにもかかわらず、有効な治療法は存在しない。本研究では、複数の網羅的な遺伝子発現解析を連動することで、心腎連関病態をより反映した特性評価を行うことを目的とした。近年、ヒトの妊娠高血圧症候群(子癇前症)で心腎連関病態を呈することが報告され、また、犬やネコなどでも発症するなど、心腎連関はヒトに限らず、潜在的に畜産動物や愛玩動物にも広く認められる病態である可能性が示されつつある。本研究は、心腎連関の分子ネットワークの同定を通して心腎連関の発症の仕組みを紐解くことで、ヒトを含めた他の動物種にも応用可能な、心腎病態に対する予防・治療戦略に繋がる基盤研究である。現時点で、心腎連関病態には適切な評価モデルも存在しないため、発症原因は未解明であり、有効な治療法も確立されていない。本研究では、心腎連関病態を呈するANSマウスを活用し、心臓や腎臓組織の遺伝子発現応答の変化と病態との因果関係について、遺伝子発現情報の網羅的なプロファイリングにより解析することを目的とした。令和3年度では、心腎連関病態を呈するANSマウスを作製し、ANSマウスの心臓や腎臓など、心腎連関の場である組織を採取し、ANSマウスのこれら臓器を用いたRNA-seq解析に着手した。また、心腎臓器連関の場である心臓と腎臓に加え、腎機能を担う糸球体について、マウス腎臓からの糸球体単離法を検討、実施し、マウスから腎糸球体のみの単離法を確立した。現在、糸球体のみの網羅的遺伝子発現解析に向けて、ANSマウスからの糸球体単離を進めている。
2: おおむね順調に進展している
心腎連関マウス組織の多層的な遺伝子発現プロファイリング解析に向けて、マウスへの血圧上昇ホルモン(A)、片腎摘(N)、食塩水負荷(S)の処置を行うことでANSマウスを作出し、ANSマウスの心臓や腎臓について、RNA-seq解析にて、mRNA情報の解読に着手した。また、翻訳の場であるリボソームに存在するmRNAの「翻訳情報」をRibo-seqで取得するため、心臓と腎臓の組織からのリボソームの分画に着手した。
今後、ANSマウスの心臓と腎臓から得られた遺伝子の発現状況をコントロールマウスと比較するとともに、RNA-seq解析とRibo-seq解析との違いを精査することで、転写段階と翻訳段階での遺伝子発現の変化の同定を試みる。また、心腎連関に関わる組織や血中の代謝物の網羅的解析に向けて、ANSマウスからの血液や臓器の抽出液といった検体の採取を進める。
納品に時間を要したため、次年度での使用にて対応することとした。
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Elife
巻: 10 ページ: e50346
10.7554/eLife.50346.