研究課題
効果的な抗ウイルス薬の開発によりHIV感染者の治療は劇的に進歩し、感染者の治療は新たな感染を防ぐ予防効果があることもあきらかとなっています。しかしながら、全ての感染者が抗HIV薬を服用し続けることは非常に困難であり、より投与回数の少ない抗ウイルス薬の開発が求められています。本研究の目的は、新たな抗ウイルス薬候補である抗HIV抗体の投与によって寛解状態に至るメカニズムの解明です。SHIV感染カニクイザル・モデルにおいて、抗HIV抗体の3回投与によってウイルス増殖を持続的に抑制して寛解状態となったサルと、ウイルスを抑えきれなかったサルが認められました。このため、抗体投与後のリンパ節のsingle cell RNA sequencingを行って1細胞ごとの遺伝子発現プロファイリングを行い、ウイルス抑制と相関する細胞群や遺伝子発現の特定を試みました。本年度は、カイコで産生した抗HIV抗体を低容量で投与した4頭、高容量で投与した3頭、CHO細胞で産生した抗HIV抗体を低容量で投与した2頭のウイルス接種前と接種後8週のリンパ節を用いてsingle cell sequencingを行いました。カニクイザルのリンパ節の解析例がほとんど報告されていないため、遺伝子発現によって分けられたクラスターごとに高発現している遺伝子を調べ、カニクイザルでの細胞群特定のマーカー遺伝子を同定した。このマーカー遺伝子によって、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞などの細胞群を同定しました。これまでの解析では、ウイルス抑制と相関する細胞群や特定の遺伝子発現の増減は認められず、来年度以降、詳細な解析を行なっていく予定です。
2: おおむね順調に進展している
9頭のカニクイザルからSHIV接種前と接種後8週のリンパ節を取得し、single cell sequencingを行うことができた。カニクイザルのリンパ節の細胞群の同定は、これまでにほとんど報告されていないため、ヒトで使用されているマーカーを参考にし、各細胞群で発現が高い遺伝子を調べ、カニクイザルで使用できるマーカーを特定した。各細胞群について、細胞数や遺伝子発現の違いをウイルス抑制群と非抑制群で比較し、大きな差は見られないことをあきらかにした。これらの成果は、本年度の解析が予定通り行われたことを示している。
今年度の解析結果では、ウイルス抑制群と非抑制群で遺伝子発現に大きな差がないことが分かった。今後、Gene Set Enrichment Analysisなどの新たな解析法の導入によって、より詳細な解析を行い、ウイルス抑制と相関する遺伝子発現の特定を目指す。また、より解析の精度を上げるため、新たなサルからリンパ節を取得し、single cell sequencingを行う。今年度は感染後8週のリンパ節を解析したが、大きな遺伝子発現の差異がなかったため、ウイルス抑制のために細胞が活性化していると考えられる感染後4週のリンパ節の解析も検討している。
コロナ禍の影響により、多くのプラスチック製品やキットが今年度中に納品されなかったため。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) 産業財産権 (2件) (うち外国 2件)
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