免疫不全マウスにヒト造血幹細胞を移入したヒト化マウスは、ヒト免疫細胞の動態を生体内で解析できる革新的な実験動物である。この実験動物は世界中で用いられ、多くのヒト免疫研究に貢献しているが、これらは当然のことながら通常はSPFグレードで飼育維持され、マウス由来腸内細菌叢を有する。一方で、腸内細菌叢の研究には無菌マウスに菌叢を投与し評価するが、この実験に使用されるマウスの多くはB6やBALB系統など正常な免疫系を有する野生型マウスであり、マウス免疫細胞が研究対象とされている。免疫機能と腸内細菌叢の関係に関して多くの報告がされているが、両者をヒト化し検証された報告は乏しい。ヒト免疫系とヒト腸内細菌叢との相互作用を解析するために、本研究では、免疫系と腸内細菌の両方をヒト化したモデルマウスを開発し、ヒト免疫細胞とヒト腸内細菌叢の相互作用が評価できる動物モデルの確立を目的としている。 2023年度までの研究により造血幹細胞を移植したNOGマウスの腸管にヒト免疫細胞は観察されないことが分かった。2024年度は腸管内にヒト免疫細胞が検出される次世代NOGマウスを無菌化、無菌ヒト免疫系マウスを作製、ヒト糞便移植を行い、免疫系と腸内細菌の両方をヒト化したモデルマウスを作製しヒト細胞キメラ率の確認を行った。具体的には、ヒトT細胞、B細胞、NK細胞、マクロファージなどの血中あるいは組織への生着性、脾臓中ヒトT細胞のサイトカイン産性能をフローサイトメトリーにて解析した。ヒト免疫細胞の生着性、分化能を無菌環境下で飼育したヒト化マウスと比較し、再構築されたヒト免疫系のデータを得た。その結果、次世代NOGマウスでもNOGマウスと同様に定着菌叢により血中の免疫細胞の分化に差がある傾向がみられた。しかし、腸管リンパ球では腸内細菌叢による差は見られなかった。
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