子宮内膜症は逆流月経血に含まれる子宮内膜組織が子宮外で増殖、剥離を繰り返すヒトを含む一部の霊長類種の疾患である。解剖学的、生理学的特徴の違いからげっ歯類では自然発症せず、多くの同疾患モデルマウスは部分的に病態を反映するだけで、良好なげっ歯類モデルが存在しない。本研究では子宮内膜症に必要な素養である①腹腔内での子宮内膜組織の生着、②それに対する免疫反応、③月経様ホルモン制御、を複合的に有する疾患モデルの作製を目指した。霊長類化したマウス子宮内膜症モデルができれば、本症の探索的研究に大きく貢献できるであろう。 ドナー組織は倫理的手続きが困難なヒトでなく、ヒト同様の雌性解剖、生理を示し、本症を自然発症するカニクイザルから得た。そして免疫不全マウス(SCID-hu)をレシピエントとした。最終的にはSCID-huの1個体内に、子宮内膜組織を腹腔内、骨髄細胞を静脈内移植し、卵摘後にプログラムポンプを皮下埋設しエストロゲンを断続的に投与、月経様周期を惹起させる予定だが、成果は得られていない。現状は、上述の①と②について、SCID-huへカニクイザル子宮内膜組織と骨髄組織をあわせて移植する実験と、③について、卵巣摘出ICR系マウスの皮下へプログラムポンプを埋設しエストロゲンを投与、ホルモン挙動を検討する実験を行った。 子宮内膜と骨髄組織を移植したSCID-huでは、約2/3の確率で腹壁あるいは卵管間膜に腺様組織が生着しヒトCD10免疫染色陽性、脾臓ではヒトCD3、CD20免疫染色陽性で、移植組織の生着が確認できた。プログラムポンプ埋設・卵巣摘出ICRマウスで28日ポンプを稼働させたところ、非埋設・卵巣摘出ICRマウスよりエストロゲン値が高かった。①~③各々の条件を整えることができたので、助成期間を終えてからになるが、すべての子宮内膜症の素養を併せ持ったSCID-huを作製する予定でいる。
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