研究課題/領域番号 |
21K06005
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研究機関 | 公益財団法人実験動物中央研究所 |
研究代表者 |
江藤 智生 公益財団法人実験動物中央研究所, 生殖工学研究室, 室長 (30370175)
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研究分担者 |
高橋 利一 公益財団法人実験動物中央研究所, 動物資源技術センター, センター長 (90206863)
外丸 祐介 広島大学, 自然科学研究支援開発センター, 教授 (90309352)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 顕微授精 / 膜融合 / 精子 / アクロソームキャップ / 卵子 |
研究実績の概要 |
ラットやマウスに対してのICSIは、凍結精子からの個体復元や、繁殖困難な系統の経代に 用いる重要な顕微授精法であるが、作製した受精卵の胎子発生率は低い。その原因は、卵子へのピペット挿入による物理的損傷や、精子と共に注入する培地の化学的な毒性が考えられる。そのため、卵子と精子の細胞膜融合を人工的に促進して授精させる方法を開発する。具体的には不動精子を対象とした、1)精子の自然な運動を人工的に再現して授精、2)精子と卵子の細胞膜を高電圧で融合して授精である。 自然現象では、精子頭部のアクロソームキャップ(AC)が外れた後に、卵子と膜融合して受精が起こる。本研究でも人工的にACを除去するが、精子本体の細胞膜に損傷を与えて膜融合が阻害されてはならない。そのため、複数のAC除去法を比較し、細胞膜が低ダメージとなる除去法の選抜から開始した。しかし細胞膜の損傷は、顕微鏡下の観察では分からない。そのため始めに、膜の損傷を蛍光染色で判定する方法を検討し、適正な染色法を構築した。 次に、AC除去の成否を確認する必要があるが、やはり顕微鏡下の観察だけでは分からない。そのため、ACとその下の精子頭部の蛍光色を変更してACが適正に除去できたか分かる方法を検討し、適正な染色法を構築した。そしてAC除去の為に、化学的なLysolecithinと非イオン系界面活性剤のTriton X-100、アルカリ溶液での処理および超音波で物理的に除去する方法の比較を開始した。 本研究で顕微授精を行う際には、複雑な顕微操作が必要になるため、自動化の検討も開始している。そして現在までに半自動で、精子をピペット内に吸引せずに、透明帯を穿孔した後に、ピペット先端に保定して卵細胞膜に圧着する方法を構築した。胚の培養技術の構築では、体外で受精した胚を高率で胚盤胞へ発生させる方法を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膜融合を介した顕微授精法の確立には、精子頭部のアクロソームキャップ(AC)を、精子本体の細胞膜に損傷を与えずに除去する必要がある。現在までの研究で、細胞膜の損傷の可否とACの除去を証明する方法が構築できたので、複数のAC除去法の比較選抜を行う事が出来るようになった。 次に本研究課題の顕微受精では、従来のICSI法よりも複雑な顕微操作が必須となり、手動で再現することは困難である。しかし、我々が開発したIAESMの半自動操作を改良する事により、この複雑な操作が簡易に再現性良く行えるようになった。 培養による体外発生の検討は、受精条件の改善と、顕微授精後の胚の発生を確認する上で必要である。現在までの検討で、従来は培養困難な体外で受精したラット胚の胚盤胞への高率な発生も確認出来た。 3年間の研究期間の初年度に、本課題の基礎となる、精子の検査法と顕微操作および胚の培養法に一定の成果が出たことを鑑み、研究は概ね順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
精子と卵子の膜融合は、本研究の核となる。その為、顕微操作の全工程を毎回行うのでは無く、まず電圧の印加条件の設定に特化して、条件別の膜融合の可否と再現性に特化して研究を進める。その為に、あえて透明帯を全除去して印可の繰り返し実験や、通電プローブへの精子の装着方法の検討から始める。また、アクロソームキャップの除去条件も継続して検討する。これら検討が出来たら、顕微操作の自動化に適する透明帯穿孔条件とプローブの圧着時間の検討をおこなう。 顕微操作は、前記膜融合条件の検討が進み次第、順次自動化野条件設定の検討をおこなう。特に、通電プローブの形状の検討は重要な課題の一つとなる。 顕微操作後の胚培養条件の改善では、マルチガスインキュベーターを用いて、酸素濃度の変化による胚盤胞への発生をおこなう。必要であれば複数培地を用いる。そして、3つの前述項目が達成されたら、胎子発生の確認をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の理化学器材であるプラスチック・ガラス製品等は、本研究全般で使用される。また、研究に使用する動物の維持に必要な物品もこれに含まれる。試薬は、生体試料の体外培養・顕微操作・保存および染色等に使用する。動物は、配偶子採取および胚移植等に使用する。本年度、胚培養は基礎検討から開始したので、炭酸ガスインキュベーターの使用で十分だった。しかし次年度は、より培養条件が向上されると考えられる、低酸素状態での胚盤胞への発生をおこなう。そのため、酸素分圧を変動可能なマルチガスインキュベーターの購入を視野に入れている。これら何れの品目も本研究遂行のために必要である。
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