研究課題
実験動物を対象とした顕微授精は、凍結精子からの個体復元や、繁殖困難な系統の経代に用いるが、汎用されているICSIでは作製した受精卵からの胎子発生率は低い。その原因は、卵子へのピペット挿入による物理的損傷や、精子と共に注入する培地の化学的な毒性が考えられる。そのためピペット挿入を行わない、卵子と精子の細胞膜融合を人工的に促進して授精させる方法を開発する。本年度は、複数の方法でアクロソームキャップ(以下、AC)を除去した後に、圧着又は印可電圧による膜融合を介したマウスの顕微授精を主軸として研究した。ACを除去しない対照区と超音波を用いた区では、前核は確認できなかった。精子を液体窒素に1回浸漬してACを物理的に除去する区(以下、LN2区)では、供試卵の11%に前核と細胞分裂が確認でき、2細胞期胚の2/3が胚盤胞まで発生した。3回浸漬の区も設けたが、前核形成と細胞分裂は16%で、発生は8細胞期迄に停止した。以降の区では液体窒素1回浸漬に他のAC処理を加えた。Triton X-100区では、14%の前核と細胞分裂が確認できたが、発生は2細胞期で停止した。リゾレシチン区では、12%の前核期と細胞分裂を確認したが、発生は2細胞期で停止した。アルカリ溶液区では、前核確認が56%だが細胞分裂は32%で、発生は4細胞期迄に停止した。電圧印可は4パターンを試みたが、高電圧では細胞が崩壊し、低電圧では細胞の形状は保たれたが前核は確認されなかった。電圧印可より圧着が受精・発生に有利だったので、よりマイルドなAC除去を試みた。体外受精培地に運動精子と透明帯を入れ、透明帯に付着した精子を採取し、卵子の細胞膜に圧着する区を設けた。供試卵に対し41%の細胞分裂を確認したが、発生は8細胞期迄に停止した。現在、実験結果を元にして圧着後に高い受精率と発生率が得られる方法を検討している。
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