有袋類であるハイイロジネズミオポッサム(以下、オポッサム)は、従来のモデル哺乳動物にはみられない形態形成機構や環境適応のメカニズムを有する。本研 究計画では、遺伝子改変オポッサム作製の効率化を目指すと共に、F0世代による遺伝子機能解析を可能とする次世代型遺伝学的手法の基盤技術開発およびリソー ス化を目指した受精卵の凍結保存技術の確立を目的とする。 オポッサムは、マウスやラットのように発情を特定することは極めて困難であるとされている。我々は、雌の膣の日々の状態観察を行い、わずかに膣の状態が変 化していくこと、同居中の雄からある時期に特有な刺激臭が放たれることを確認し、この事とメスの発情との相関関係について調べた。しかしながら、これらの変化と発情との明確な相関関係を示すデータは得られなかった。一方で、交尾日のコントロールはできないものの、遺伝子改変を実施する上で重要だと考えられる受精卵のステージについては、明暗周期の最適化を行うことで、数時間単位で調整することが可能となり、これにより、遺伝子改変個体の作製に適した時期の受精卵ステージを特定することができ、作製効率を改善することができた。尚、交尾日の特定については、トラッキングシステムの構築により、自動化することに成功した。 凍結保存技術については、ムコイド層やシェルコートの除去が困難であることから受精卵での保存は依然として難しいが、精子については、融解後の精子を想定した人工授精の技術の確立に成功し、その可能性が大きく期待できる成果があった。
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