研究課題
現在、国内では水平感染により多くの新規HTLV-1感染者が発生している。特に閉経期と重なる50代女性での感染リスクが他の年代に比べ高いが、その原因については不明な点が多い。そこで我々は女性の加齢に伴う感染リスクの変化を規定する要因の解明に向けHTLV-1と約90%の相同性を有するニホンザルSTLV-1に注目し、閉経前後の個体を含む感染雌ザル8頭の生殖器官でのSTLV-1感染動態を解析した。その結果、全個体において腟で高いプロウイルスDNA(PVL)が検出された。加えて、腟を部位別に解析したところ閉経後の個体では腟上部に向けてPVLが高くなる傾向にあった。感染細胞を同定するためSTLV-1プラス鎖及びマイナス鎖mRNAに対する検出用プローブ (pX及びSBZ) を構築し、RNA in situ hybridization法による解析を行ったところ、SBZ mRNAは形態学的に明らかな腟上皮細胞(VECs)で多数検出された。特に若年個体ではSBZ+ VECsは主に基底膜近傍で検出されるが、閉経後は基底膜から上皮の中間層まで幅広に散在することが明らかとなった。そこで閉経前後に腟でどのような変化が生じているかについて組織学的解析を行った結果、腟扁平上皮層の菲薄化が閉経を境に加齢と共に進行し、特に腟上部の扁平上皮層で脱落像が顕著であった。加えて閉経個体ではCD3+細胞の上皮層への浸潤が多数検出されたのに対し、若年個体では上皮層への浸潤はほとんど認められなかった。以上の結果より、閉経個体では腟上部において細胞浸潤を伴う炎症が惹起されると共に、上皮層の菲薄化により物理的にウイルスが侵入しやすい環境が形成されていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
STLV-1感染ザルを用いて、膣を中心とした生殖器官におけるウイルスリザーバーの局在および感染標的細胞を明らかにすることができた。また、年齢の違いによる膣環境の変化が感染リスクの上昇に寄与するデータが得られており、今後感染リスクを規定する宿主側因子の同定に向け、研究が進められているため
同定された感染標的細胞について、年齢の違いによる量的・質的(活性化状態やレセプター発現レベル等)変化が見られるか、また、年齢と相関する変化が見られた際には、それを規定する宿主側因子を同定する。 これらを通じて、水平感染様式を解明するとともに、高齢女性における水平感染リスク上昇の要因を特定する。
年度末にサル検体を得るために複数回の出張を予定していたが、都合により翌年度実施に予定変更となったことや、コロナ禍の影響により試薬・消耗品等に多くの納期が必要なものがあり購入が翌年度にずれ込んでしまったため。使用計画に変更はない。
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