研究課題/領域番号 |
21K06009
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
福田 康弘 東北大学, 農学研究科, 助教 (50527794)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | テトラヒメナ / DSB / タンパク質輸送 / ATG / オートファジー |
研究実績の概要 |
原生生物の繊毛虫テトラヒメナは機能的かつ構造的に分化した二種類の核(大核と小核)を一つの細胞内に備える.大核のゲノムは再配列かつ多倍体化しており,効率的な遺伝子発現を実現している.一方,小核は転写活性をもたず,生殖核として2n=10のゲノムを保持する.そして接合とよばれる有性生殖では,小核は減数分裂を伴う配偶核形成を行い,二つの配偶核の融合から生じる受精核が新たな世代の大核と小核を作る.小核が配偶核へと分化する過程では,ゲノム全域のユークロマチン化を伴うクロマチン再編成が起こる.これまでの解析から,遺伝的にプログラムされた DNA 切断が減数分裂後の小核ゲノムへ導入され,生じた DNA 損傷の修復がゲノムのユークロマチン化をもたらすこと,また DNA 損傷応答では Iswi と Rad5 が重要な役割を果たすことを明らかにしている.今回,配偶核ゲノムのクロマチンリモデリングに携わる DNA 損傷応答として,相同組換え機構が関わることが示唆された.一般的に,相同組換えによる DNA 修復は損傷部位から 3'と 5'の両方向の広い領域へデノボヌクレオソームアッセンブリをもたらすことが知られている.相同組み換え系による DNA 修復が遺伝的にプログラムされた DNA 損傷応答に携わることは,配偶核への分化と関わるゲノムのユークロマチン化(ゲノムリプログラムニング)を速やかに進めることに寄与していると予想される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
減数分裂を経ると小核から 4 つの半数体核が生じる.これらのうち選ばれた 1 核だけが配偶核となり,他の 3 核は分解される.興味深いことに DNA 切断は 4 つ全ての半数体で生じるが,ユークロマチン化をもたらす DNA 修復はやがて配位核となる選択核だけが受ける.この DNA 修復では DNAPKcs などのシグナル因子,Snf2 タンパク質などのクロマチン再編成複合体.また相同組換え修復因子など,非常に多様なタンパク質が働くことがわかってきた.そして「選択核だけ」が DNA 修復を受けることから,リソースを集約して配偶核形成を効率的に進める「しくみ」が存在することが新たに示唆された.そこで本研究の新たな課題として,DNA 修復とクロマチン再編成に携わる分子が選択核へ集約的に運搬される機構の解析を進めることにした.まずクロマチン再編成因子複合体や DNA 修復因子を選択核へ運搬するトランスポーターを免疫沈降などから特定することを試みたが,この機構に携わるようなタンパク質を特定するには至らなかった.そこで,非選択核だけがオートファジーで分解される点に注目して,接合初期におけるテトラヒメナ ATG ファミリーの挙動を解析することを試みた.ゲノム情報の解析から.テトラヒメナがもつ ATG ファミリータンパク質のいくつかには機能調節に関わることが予想される長いテイルが発見された.現在,構造的特徴をもつテトラヒメナの ATG ファミリータンパク質について,それらの機構解析を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
テトラヒメナの接合では,ATG を介する典型的な分子機構のオートファジーが非選択核の分解に寄与すると予想されている.テトラヒメナのゲノム情報を詳しく調べると,ATG ファミリーの欠失,長いテイルの付加など,テトラヒメナの ATG ファミリータンパク質は非典型的な性質を有することがわかった.これらの非典型的な性質が接合における選択的オートファジーに寄与する可能性がある.そこで欠失した ATG ファミリータンパク質の機能を補完している分子の特定,また長いテイルの機能性について解析を進めることを計画した.具体的には,欠失を補完するタンパク質を特定するため,ATG 系の調節に携わる複合体を免疫沈降で回収し.その構成因子の特定とそれらの機能解析を進める.また ATG ファミリーのテイルの機能性は,その部分欠損を導入した細胞を作成し,接合における選択核と非選択核の挙動を解析する.これらからテトラヒメナの接合における選択的な核輸送のメカニズム解明を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進展によって,論文として公表するため不可欠な実験を追加して行う必要が生じた.また,解析に用いる機器(エレクトロポレーター)が不調になり,その調整に時間を要した.これらの理由によって研究期間を延長することになり,この延長に伴う次年度使用額が生じた.
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