本研究の目的は全身の炎症性老化の原因となる造血幹細胞(HSC)老化の知られざるクロマチン構造破綻メカニズムを解明し、その誘導因子を明らかにすることである。 初年度(2021年度)は少数の細胞をもちいた転写因子・クロマチン高次構造調節因子局在の新規網羅的解析法の検討をおこない、マウス1個体に由来するHSCをもちいたクロマチン修飾解析・HSCサブセットの解析を可能とする技術的基盤を確立した。第二年度(2022年度)では老化による骨髄球分化・アポトーシ ス抑制関連遺伝子の活性型ヒストン獲得、および分化関連転写因子とHSCにおけるヒストン修飾変化との関連について得られたデータ解析を完了させ、老化による多層的クロマチン変化を明らかにした。 最終年度(2023年度)ではHSC老化において変化の顕著なヒストン修飾としてH3K56acの局在を解析し、さらにヒストン修飾状態の変化を引き起こす因子の探索をおこなった。後者については分化関連転写因子を含む細胞内在性因子の関与にくわえて、当初計画にはなかった骨髄の組織学的解析により骨髄球への分化の偏り(ミエロイドバイアス)を生じた老化HSCの局在を解析した。その結果、HSCの機能制御に重要なニッチとして知られる血管(おもに類洞血管)との距離に変化が見られなかった一方、造血前駆細胞との空間的距離・配置に顕著な変化が見られた。 以上により本研究では当初計画にしたがって、新規高感度・網羅的エピゲノム解析法をもちいてHSC老化の様々な特徴をもたらすヒストン修飾変化を初めて明らかにした。本研究の成果は最終年度で見出されたHSCと近傍細胞との相互作用変化などの幹細胞老化のメカニズム理解・制御のための基盤となる情報を提供するものであり、研究期間終了後早期の成果発表に向けて準備中である。
|